■リアリティあふれる演技に心打たれた『予告犯』

 最後に紹介するのは2015年に公開された『予告犯』だ。本作での生田さんの演技もまた怪演と評するにふさわしい。先に紹介した2作品と異なるのは、ごく普通の人間が犯罪者に変貌していく点だ。

 派遣社員の奥田宏明は、3年間務めたIT企業で正社員登用を目前にしながら、社長や社員からの嫌がらせで心を病み退職。その後は再就職がうまくいかず、違法な廃棄物処理場で働くことになる。そこでは、奥田と同じように社会から見捨てられた弱者たちが、必死にもがき苦しみながら生活をしていた。

 そんな中、仲間の1人が命を落としたのをきっかけに、残された奥田たちの社会に対する不満が爆発する。彼らは死んだ仲間のため、弱者の心を平気で踏みにじる人間を裁くことを決意。以来、犯行予告の後に制裁を下す「シンブンシ」として、世間から注目されることになる。

 奥田役の難しさは、平凡な人間が壊れていく過程の表現にあるだろう。会社でいじめを受けるシーンなどは、ビクビクする姿が真に迫っており心が痛くなった。しかし、その後の悲劇を経て“覚悟”を決めるシーンは、目つきからして別人だ。

 また、新聞紙の頭巾を被っている時は目しか見えないが、その目にも切羽詰まった感情が宿っているように見える。弱者として踏みつけにされ続け、凶行に走るしかなかった奥田。その姿は他人事として片付けるには切実すぎる。

 平凡な男と犯罪者という二面性を巧みに演じ分けられるのは、生田さんの目力や表現力があってこそだろう。そのあまりにリアルな演技は、人間が極限まで追い詰められた際の心理を観客に想像させた。

 

 生田さんの演じるダークな役柄は、どこかリアルで壊れている感じがして、いつまでも記憶に残ってしまう。作品によってはダークとは程遠い好青年などの役も演じているからこそ、そのギャップが彼の演技の凄味をいっそう際立たせるのである。

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