12月14日に最終回を迎えた2025年大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。12月29日には総集編とパブリックビューイングの様子の放送が予定されており、年末年始のおともとして楽しみにしている人も多いだろう。
本作は豪華キャスト陣の名演技が注目を集めたが、中でも“怪演”と高く評価されたのが生田斗真さん。恐ろしい冷血漢・一橋治済を見事に演じただけでなく、彼と瓜二つの別人・斎藤十郎兵衛役も務めている。正反対といってもいいほどの2人の演じ分けは、視聴者に強烈な印象を残した。
生田さんは過去にも、さまざまな作品で多彩な役柄を演じてきた。今回はその中から、“怪演”と呼ぶにふさわしい特に印象的だった演技を振り返っていこう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■恐るべき復讐鬼を演じた『Demon City 鬼ゴロシ』
まず紹介するのは、Netflixで2025年2月27日から配信された『Demon City 鬼ゴロシ』だ。
本作で生田斗真さんは、伝説の殺し屋・坂田周平を演じた。坂田は愛する妻と娘のために殺し屋引退を決意するが、そんな矢先、謎の組織「奇面組」によって妻子の命を奪われてしまう。彼自身も頭を撃たれ、死んだかのように思われた……が、奇跡的に一命を取り留める。
物語は、坂田が自分の人生を壊した奇面組に復讐を遂げるという筋書きだ。生田さんは、何より大切な存在を奪われた男の鬼気迫る演技を全編にわたって見せている。
容赦なくマサカリを振るい、返り血を浴び自身も血を流しながら、寡黙に淡々と標的を追い詰めていく。復讐に燃える殺し屋のそんな姿は、観る者をぞっとさせる。その根底にあるのは、抑えきれないほど激しい怒りの感情だ。
常に怒りの感情を持続させる演技は、決して簡単なものではないだろう。しかし生田さんは、それぞれの温度に差こそあれ、最後まで全力の怒りを体現し続けた。キレのあるアクションと相まって、“相手を絶対に殺す”という意志が恐ろしいほどに伝わってくる。
何度傷ついても立ち上がるその執念深さは、まるでゾンビのようだ。相対した者たちは、「絶対逃げられない」という圧倒的な恐怖を感じたことだろう。復讐にとりつかれ暴走する姿は、まさに“鬼”のようだった。
■微細な感情変化に釘付けに…『脳男』
次に紹介したいのが、2013年に公開された映画『脳男』だ。生田さんが演じた「鈴木一郎」こと入陶大威(いりす・たけきみ)は、感情を持たず、指示通りに動くロボットのような男である。
大威は幼少期に施設に預けられていたが、祖父に引き取られ、特別な指導を受けるようになる。彼は指示を出されなければ食事や排泄さえしない子どもだったが、超人的な知能、記憶力、分析力を持っていた。
教えられたことを瞬時に吸収する大威に、祖父は殺人術まで叩き込んだ。それは、大威の両親、つまり自分の息子夫婦をひき逃げした犯人に復讐をさせるためだった。その結果として、感情を持たない殺人マシーンが完成してしまう。
生田さんの演技で注目すべきは、実に微細な感情表現である。感情が欠如した人間という役どころなので、表情はほとんど一切変えず、動きも最小限に留めていた。“瞬きをしない”演技からも、彼が完全にロボットになりきっているのが伝わってくる。
しかし、物語が進むにつれ、大威にも本当は感情があるのではないかと思われる場面が出てくる。特に、親身に寄り添おうとしてくれた鷲谷真梨子が危機に陥ったときには、彼の中に「守りたい」という明確な意志が芽生えているように見えた。生田さんはほとんど表情を変えることなく、わずかに目を見開く動きや目の色の変化で、その心の揺らぎを巧みに表現している。
彼のこうした演技により、大威の無機質で冷酷というイメージは変わっていく。実は感情があるのにうまく表現できないだけなのかもしれない、と観客も感じ始めるのだ。無感情に見える人間の心の叫びを、セリフや表情に頼らず表現する演技力はさすがだ。


