12月9日の最終回を目前に盛り上がりを見せているドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)。『TVer』の再生回数がTBS全番組の記録を更新する(※1)人気ぶりだが、その背景には、ぞんざいな口ぶりのタイトルと反して、誰も断罪せず、登場人物それぞれがゆるやかに価値観を見直していくという作品全体に漂う優しさがあるといえる。
脚本を担当するのは、岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家でもある安藤奎さんだ。本作が初の連続ドラマ脚本となる安藤さんに、執筆の裏側について聞いた。
【全2回の前編】
――10月29日、TBSの定例社長会見で『TVer』での第3話再生回数が442万回を突破したこと(※2)が発表され、第7話では552万回を突破しTBS全番組の記録を更新したりと、本作は破竹の勢いで視聴者を虜にして今期を代表する人気ドラマとなっています。今の率直なご感想を教えてください。
安藤奎さん(以下、安藤):たくさんの方に見ていただけて、本当にうれしいです。勝男や鮎美に共感したりと、いろいろな思いを持って観てくださっているのを感じるので、作品が視聴者の方それぞれの日常に届いていることが何よりありがたいです。
――SNSなど、視聴者の反応はごらんになりますか?
安藤:SNSの感想を細かく追えているわけではないのですが、ネットニュースなどでたくさんの反響が目に入ってきて、とてもうれしく感じています。なかでも、勝男の衣装など細かい部分にも着目して楽しんでくださっているのが印象的です。
――たしかに、衣装やクセの強いエキストラの存在など、みなさん細かいところにまで目を向けていますよね。原作は谷口菜津子さんによる同名漫画ですが、まず、原作を読んだときにどう思いましたか?
安藤:日常のささやかな出来事の中にある優しさや違和感が、とても丁寧に描かれている作品だと感じました。料理を通して人間関係が立ち上がっていくところが新鮮で、その温度や空気感に惹かれました。
――脚本を執筆するにあたり、谷口さんとどんなやりとりがありましたか?
安藤:なにげない話をしたり、最近の面白い漫画の話など雑談したりしました。作品に関しては「好きに書いてください」とおおらかにおっしゃってくださって、ありがたい気持ちと同時に、身の引き締まる思いでした。原作がとても魅力的な世界観で描かれているので、その空気を崩さないように意識して脚本に取りかかりました。
――本作は「現在の視点から古い価値観や常識を笑う」という単純な構造ではなく、「すべてを優しく受け止め、その上で価値観を見直していく」というドラマ全体のトーンが絶大な支持が集めている要因だと思います。執筆するにあたって、特にどんなことを意識しましたか?
安藤:誰かを否定せず、その人の背景や思いをまず受け止めることを大切にしました。価値観は批判して変わるものではなく、小さな気づきの積み重ねで変わっていくと思うので、そのやわらかな変化が自然に立ち上がるように意識しました。
――夏帆さん演じる鮎美と竹内涼真さん演じる勝男の主人公2人だけではなく、勝男の会社の後輩、上司、初めてできた女友達、鮎美の新たな友達さんや新たな恋人、会社の同僚、そしてお互いの家族……などなど、脇を固める登場人物1人1人がとても魅力的です。限られた尺の中でキャラを掘り下げるため、意識されたことはなんでしょうか?
安藤:それぞれのキャラクターが個性的で、本当に好きなので、演じる方の顔を思い浮かべながら「この人にはこういう言葉を言ってほしいな」と想像しながら書いていました。魅力的に映っているのは、なにより俳優さんの力が大きいと思います。皆さんがキャラクターに深みを与えてくださって、脚本以上の存在感に仕上げてくださいました。
――なかでも、お気に入りの登場人物はいますか?
安藤:会社の先輩にも臆さずに思ったことを言える、南川あみな(演:杏花さん)は、私とは違うタイプで憧れの気持ちを抱きました。イラッとすることがあっても素直に接する人物で、協力したいときにはちゃんと助ける。その人間らしさがとても魅力的で、書いていて楽しいキャラクターでした。
――勝男に対する物怖じしない南川はたしかに魅力的です! 登場人物が勝手に動き出すように筆が進んだシーンなどはありましたか?
安藤:脚本が勝手に進んでいく感覚があったのは、勝男、南川、白崎(演:前原瑞樹さん)、高田課長(演:平原テツさん)がそろう会社のシーンです。彼らが会話するだけで自然とテンポが生まれて、何も考えずに楽しんで書けました。また、鮎美と同僚・佐々木(演:安藤輪子さん)のやりとりも、二人の距離感が好きで、筆が進む場面でした。
――俳優さんたちの表現力にも視聴者から絶賛が集まっていますが、脚本を書いた立場から、俳優陣の演技で思わず唸った箇所や感動した場面がありましたら教えてください。
安藤:第1話で、勝男が鮎美を思い出して泣くところは本当に感動しました。また、第5話の、とり天を持って行って泣いている勝男を鮎美が静かに見つめている場面も、とても素敵で胸に残っています。
――妻と仲違い中で気落ちする勝男の兄(演:塚本高史さん)へ、勝男が空港までとり天を届けにいくシーンですね。
安藤:あと、会社のシーンで南川、白崎、高田課長、勝男がそろう場面は、毎回テンポがよくて面白いですし、渚(演:ラランド・サーヤさん)の明るさが鮎美を救っていくような瞬間も好きです。選びきれないくらいたくさんあって……毎回驚かされています。
――お気に入りのセリフやシーンはありますか?
安藤:第4話で、勝男がたまたま南川とミナトくん(演:青木柚さん)の酒店に行って、勝手に試されていると思い込んで張り切ってお酒を飲むシーンは、とても気に入っています。勝男らしい勘違いと素直さが出ていて、愛おしく感じました。
あと、原作から好きだったのが、勝男に初めて女友達の椿(演:中条あやみさん)ができたときのシーンです。勝男が「なんで女友達ってうれしいんだろう」と言って、椿が「人類のもう半分も友達になれる可能性があるって知ったからじゃない?」と返すセリフ。あのやりとりは、何度読んでも、何度観ても大好きです。
――サブタイトルで、勝男を「化石男」、勝男母を「化石母」と表現されていたりしますが、安藤さん自身は令和における「古い価値観」をどのように感じていますか? 本作に投影した思いがあれば、教えてください。
安藤:「古い価値観」というのは、あまり意識していなくて。価値観って、その人ごとのこだわりや背景があって生まれるものだと思っています。
同じ世代だから同じ考え方になるわけではありませんし、どんな体験をしてきたかでまったく違ってくることもある。本作でも、誰かの価値観を否定したり断じたりするのではなく、なぜその人はそう感じるのかという背景や思いを、できるだけ多面的に描きたいと考えていました。
――安藤さんのそうしたお考えが、作品全体に漂う“やさしさ”の理由なのだと納得しました。最後に、安藤さん個人についてお聞きしたいのですが、影響を受けた作品や最近ハマっている作品があれば教えてください!
安藤:映画『タイタニック』が大好きです。初めて観たとき、こんなにも短く感じる3時間はないと衝撃を受けました。あの映画で、愛というものを知りました。最近ハマっているのは、アニメ『タコピーの原罪』です。漫画も好きでしたが、アニメになると痛みがよりくっきりしていて、改めて引き込まれ、一気に全話見てしまいました。
※1 「TVer DATA MARKETING」にて算出(各話配信開始から8日間の再生数)
※2 10月28日時点/「TVer DATA MARKETING」にて算出(配信期間2025年10月21日~10月28日)
【プロフィール】
安藤奎(あんどう・けい)
1992年、大分県生まれ。2016年、「劇団アンパサンド」を旗揚げ。主宰として作・演出を務める一方、ドラマやコントの脚本を手掛ける。2024年には『歩かなくても棒に当たる』で第69回岸田國士戯曲賞を受賞。


