藤子・F・不二雄さんの国民的漫画『ドラえもん』。本作で、ドラえもんが四次元ポケットから取り出す22世紀の「ひみつ道具」の数々は、子どもたちに夢を与えるだけでなく、現実世界の技術進化を予言していたかのような一面を持つ。
例えば、食べるとあらゆる言語を理解し話せるようになる「ほんやくコンニャク」は、現代の翻訳アプリとほぼ同じ性能を持つといえるだろう。
『ドラえもん』のひみつ道具は、現代社会で徐々に実用化されている。ここでは、藤子さんが未来を予見したかのように、現代で実際に使われているひみつ道具をいくつか紹介したい。
※本記事には作品の内容を含みます
■46年前に予見されていた!? “スマホ”の原型「オコノミボックス」
現代社会において、もはや誰もが肌身離さず持っている必需品「スマートフォン」。この概念を、藤子さんはなんと46年も前に予見していた。作中にはスマートフォンに似たひみつ道具がいくつか登場するが、その代表格として「オコノミボックス」(てんとう虫コミックス19巻)は外せないだろう。
この「オコノミボックス」は箱型のひみつ道具で、付属のマイクで箱に呼びかけるだけでテレビやレコードプレイヤー、インスタントカメラなど、“四角い”家電製品に変化してくれる道具だ。
小型の箱1つに多機能を集約するというコンセプトは、まさに私たちが今使っているスマートフォンそのもの。電話やテレビ、カメラがまだ独立した家電であった時代に、その性能と小型化を予見していた藤子さんの先見性には驚かされてしまう。
ちなみにこの「オコノミボックス」は、小さいながらも洗濯機や冷蔵庫、ストーブにもなる優れものだ。現代のスマートフォンも、そこまで進化することに期待したいところだ。
■編集ロボットに頼めば自動で漫画が描ける!「雑誌作りセット」
「週刊のび太」(てんとう虫コミックス17巻)のエピソードには、現代でいう画像生成AIや文章生成AIに通じるひみつ道具が登場する。それが「雑誌作りセット」だ。
ある日、自分の描いた漫画を雑誌に載せたいというのび太に、ドラえもんが出したのがこのひみつ道具だった。この道具は「製版印刷製本機」「まんが製造箱」「編集ロボット」の3点セットで構成されていて、描きたい漫画のテーマや登場人物、絵のイメージなどを指示するだけで、その場で物語と絵柄を自動生成してくれる。しかもその場で雑誌として製本までおこなってくれるうえ、当時の漫画雑誌のような付録まで作成可能だ。
作中では、手塚治虫さんの作品を「まんが製造箱」に読み込ませている。すると機械がその画風を学習し、本人さながらの新作を自動生成している。
驚くべきことに、これはフィクションだけの話ではない。現実でも2023年、AI技術を駆使して手塚さんの『ブラック・ジャック』の新作が制作・発表されたのだ。藤子さんが数十年前に考えたアイデアが、まさに現実のものとなったのである。


