■登場人物たちの10年後の姿が…!
そして2017年、『ヤングマガジン』にて『疾風伝説 特攻の拓 ~After Decade~』(作画は桑原真也氏)の連載が開始された。舞台は、暴走族という文化がすでに過去のものとなった横浜。かつての“特攻”たちが、それぞれの道で社会と向き合いながら生きていく姿を描いている。
本編から10年後の拓は、神奈川県警湊町警察署・特殊少年犯罪班に所属する刑事になっていた。かつての“恐怖を乗り越える少年”は、いまや少年犯罪の現場で、自らの過去を糧に若者たちを救おうとしていた。腕力ではなく知恵と機転で事件を解決するその姿は、暴走族時代の仲間たちが“特攻の拓”と呼んだ男とはまるで別人のようだが、その眼差しの奥には、かつて仲間を守るために拳を握った時と同じ情熱が燃えている。
マー坊は探偵事務所を立ち上げ、迷い猫探しに明け暮れる毎日。女に似ていると言われるとブチ切れる性格は相変わらずで、片手で冷蔵庫を振り回すシーンもあった。
一方、「魍魎」の武丸は、巨大企業「一条グループ」の重役として世界各国に影響力を広げる。外遊先のドイツで何者かに襲われるが返り討ちにするなど、その強さは健在。まさかの恋愛要素も盛りだくさんで、作中ではサブ主人公的な立ち位置になっている。
かつて天羽時貞との会話で音楽に対する造形の深さを見せた鰐淵は、10年前に天羽が渡してきた音源を発表したいとの想いから、音楽レーベル「夜叉音堂」を設立。音楽プロデューサーとして数多くのアーティストを輩出し、県最大のインディーズレーベルに成長させた。
意外だったのは龍也で、彼は母校・聖蘭高校で教壇に立っている。不良の巣窟と化した校内で、舐めた態度をとる生徒をぶっ飛ばしては“狂乱麗舞”を教える日々だ。
『After Decade』の物語は、マー坊が請け負ったある依頼をきっかけに、登場人物たちの過去と現在が交錯しながら展開されていく。
SNSでは連載開始当初から反響が大きく、登場人物の“その後”を知って喜ぶ声も多い一方で、「あの頃の暴走感がなくて寂しい」「大人になった彼らを見たくなかった」という意見も少なくない。ヤンキー漫画の象徴だった彼らが“社会人”として描かれることに、戸惑いを覚えた読者も多いのかもしれない。
しかし、『After Decade』の本質は、暴走族を“卒業した”男たちの再会劇ではない。むしろ、「暴走」という衝動が、社会の中でどう生き続けるのかを問う物語だ。拳や単車を捨てても、彼らの中には確かに“ぶっこみ”の精神が残っている。マー坊が依頼人を守るために拳を握る時、鰐淵が若いアーティストに「魂」を語る時、そこに流れるエネルギーは変わらない。暴走のかたちは変わっても、“己を曲げずに走る”という信条は時代を超えて生きているのだ。
『疾風伝説 特攻の拓』は謎めいた最終回を経て、小説版、そして続編『After Decade』へと伝説を紡いできた。かつての少年たちは刑事や実業家となり、社会という新たなステージを走る。伝説は終わらない……“ぶっこみの精神”はかたちを変えて走り続けるのだ。


