1990年代の『週刊少年マガジン』を席巻した原作・佐木飛朗斗氏、作画・所十三氏による伝説的ヤンキー漫画『疾風伝説 特攻の拓』(かぜでんせつ・ぶっこみのたく)。「ぶっこみ」という言葉を広く知らしめたこの作品は、リアリティあふれる暴走族や緻密なバイク描写、そして何より“仲間と抗争と信念”を描く熱量で、多くの読者を惹きつけた。
1991年から1997年にかけて連載された本編は、主人公・浅川拓の成長と挫折、各チームの覇権争いを描いた末、唐突とも言える幕引きを迎える。
最終巻の混沌を覚えているだろうか。無数のチームが入り乱れる戦場に、拓が“悪魔の鉄槌(ルシファーズ・ハンマー)”を駆って乱入。その「…喧嘩… 止めに…きたよ?」と謎めいた一言の後で一気に数日後となり、これまでのライバルたちの声が拓の脳裏に響く中で物語は幕を閉じた。この謎だらけの終わり方に、ファンの多くが「一体どういうこと?」と驚かされたことだろう。
だが、そのエンディングの“先”が描かれていたことを知る人は意外に少ない。
※本記事には作品の核心部分の内容も含みます。
■スピンオフ小説で描かれた「B突事件」のその後
漫画『疾風伝説 特攻の拓』のスピンオフ小説「Version28~32」は、原作最終巻で描かれた、いわゆる「B突事件」の翌日から始まる。
B突事件の決着はいつものようにぼかされ、すでに戦いが終わった世界から物語は動き出す。そこでは、かつての敵や仲間たちとの再戦・再会が矢継ぎ早に描かれていく。
一条武丸と一色大珠、稲楽キヨシと来栖、マー坊こと鮎川真里と八尋渉、緋咲薫と武丸、慈統享介と武丸――それぞれのタイマンは決着こそつかないが、いずれも互いの存在を認め合うかたちで終わっていく。また、リョーこと姫小路良がかつて「外道」に喧嘩を売った落とし前をつけるため、外道の吉岡義郎とタイマンし、わざと負けるシーンもあった。
そして、物語は鰐淵春樹の引退集会へと突入。「夜叉神」「爆音小僧」「AJS」まで加わった集会は2000台規模に達し、まるで“戦国時代”さながらの騒乱が横浜の夜を覆う。拓は真嶋秋生が新開発したマシンを駆り、マー坊、鰐淵、八尋、千冬慎とともに爆走。レースのような乱走の果てに、拓は“スピードの向こう側”を見たような感覚に包まれる。その走りは、鰐淵すら唸らせる圧倒的なものだった。
その後、ヒロシ(沢渡弘志)やキヨシ、緋咲、榊龍也らおなじみの面々も次々参戦し、まさにオールスター総出演の様相に。最終的に鰐淵は正式に引退を宣言し、夜叉神の「総会長代理」に拓を指名した。あの“へたれ少年”が、暴走族社会の頂点に立った瞬間である。現実離れしたスケールながら、“疾風伝説”の名にふさわしいフィナーレだった。


