■ルール無用の「トンデモ野球」の象徴!?『アストロ球団』

 『アストロ球団』(集英社・週刊少年ジャンプ/1972年)は、原作・遠藤史朗氏、作画・中島徳博氏による、昭和トンデモ野球の最高峰ともいえる作品だ。

 太平洋戦争で非業の最期を迎えた名投手・沢村栄治氏の意思を受け継いだ9人の超人(球児)たちが、「一試合完全燃焼」を信条に世界最強の野球チームを目指すストーリー。

 本作は『南総里見八犬伝』が下地になっており、アストロ球児たちの体には「ボール型のアザ」があり、それが沢村氏の意志という設定に驚かされる。

 魔球や特殊打法など、常識外れの必殺技が続出し、超人の名に恥じないトンデモシーンは球場内外で見られた。 

 主人公でエースの宇野球一は、野球で勝つためならば己の命すら惜しまない。一試合で5球以上投げれば肉体が危険になる「三段ドロップ」や、一試合に2球投げると腰が砕けかねない「スカイラブ投法」などを駆使。

 極めつけは工業用ドリルで自分の手のひらを傷つけることで、ボールを自由自在に変化させる「七色の変化球」を開発。それも麻酔なしで敢行した、まさに血だらけの肉体改造である。

 さらに球一は打撃面でも突出。バットにあらかじめヒビを入れておき、打った瞬間に砕け散るバットの破片と打球が混ざり合って守備をかく乱する「ジャコビニ流星打法」に至っては、もはやルール違反どころの騒ぎではない。

 そんなアストロ球児たちを率いるJ・シュウロ監督も突き抜けた人物だ。「アストロ球団の一員として生まれかわるため」と称し、超人たちの名前を改名。もともと宇野球児だったが宇野球一へと改名させた。

 そして三萩野球一(みおぎの きゅういち)が加わると、名前が被ってしまった三萩野球一のほうを「球五」に改名するという力技である。

 さらに超人の一人である伊集院球三郎はレーサーだったが、レース中の事故で死亡。するとシュウロは、球三郎の遺体をパラシュート降下させ、その衝撃で再び心臓を動かして蘇生するというハチャメチャぶりだ。

 なお、球三郎は事故の後遺症で失明するも、聴覚を頼りに心眼で活躍。その美貌で多くの女性ファンを魅了した。

 『アストロ球団』でもっとも苛烈だったのが、伝説の「ビクトリー球団戦」だ。野球だというのに空中を人間が飛び交い、死人や廃人が続出。折れた肋骨が内臓に喰い込み瀕死状態になっても回復、アキレス腱が切れて走れなくとも跳べばいいと驚異の走塁を見せるなど、超人のひと言では説明不可能な奇跡を起こす。

 一方、ビクトリー側の伊集院大門は陣流拳法の総帥で、拳法家らしく「ヌンチャクバット」を使用。ビクトリー球団の「殺人野球」をリードした人物だが、後に弟・球三郎との確執などさまざまな問題を乗り越えて改心。

 自身の過ちを悟ると、自ら“陰腹”を切って打席に立ち、満塁ホームランを放ちながらも、詫び状を腰に挿して立ったまま死亡。この切腹ホームランのシーンは、本作を代表する壮絶なシーンといえるだろう。

 「人間ナイアガラ」「アンドロメダ大星雲打法」「殺人L字ボール」など、突拍子もない必殺技が多数描かれた『アストロ球団』。皆さんにとって思い出深い必殺技はどれだろうか。


 こうして昭和の野球作品を振り返ってみると、今なら「やり過ぎ」と言いたくなるシーンが続出。明らかにトンデモ野球ではあるが、その強烈なインパクトが忘れられないというファンも多いはず。

 また、そんなハチャメチャな作品の中に、当時の名選手が実名登場していたりするおおらかさも昭和作品ならではの魅力といえそうだ。

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