■その威力に相手は“神”を見る? 宮田一郎のJOLT

 一歩の最大のライバルである宮田一郎の必殺ブロー「JOLT(ジョルト)」は、一風変わったダメージを相手に与えている。

 スピードとカウンターを得意とする宮田だが、本作の序盤ではパンチが軽くタフな相手を倒しきれないという弱点を抱えていた。それを克服するために編み出したのが、全身の全体重を乗せ、身体ごとパンチを叩きつけるカウンター「JOLT」である。

 この技が登場したのは、第131話。対戦相手のジミー・シスファーを一撃でねじ伏せてみせた。倒れこんだジミーの顔面からは血が滴り、リングを赤く染める1コマがとても痛々しく、その破壊力の凄まじさを物語っていた。

 その後、宮田に倒されたジミーは第727話でまさかの再登場を果たす。一歩の対戦相手として来日したジミーは、顔に大きな傷が刻まれ、目の焦点も合わず、壊れたとしか言いようのない変貌を遂げていた。

 試合前夜、彼は宮田のJOLTを受けた瞬間、光の中に自分を手招く神を見つけたと、たどたどしい口調で語る。JOLTの衝撃が彼に神の幻覚を見せ、その精神を大きく歪めてしまったのだ。

 一歩との激しい試合の末、ジミーは幸いにも神の幻から解放され「どうやら宮田戦以来悪夢を見ていたようだ」と、スッキリした面持ちで語るまでに回復した。しかし、人ひとりの精神を崩壊寸前にまで追い込んだ技・JOLT。心にまで深い傷を残すパンチとは、はたしてどのようなものなのだろうか……。

 

 ボクシングは、時に危険を伴うスポーツである。凶器に例えられるボクサーの拳は、グローブ越しであっても人体に深刻なダメージを与える。『はじめの一歩』は、その現実をごまかさず、むしろ漫画らしい誇張も加えながら克明に描き、読者が絶句するほどの必殺ブローの数々を生み出してきた。

 「このパンチが当たれば、いったいどうなってしまうのだろう?」そんな緊張感を孕んでいるからこそ、『はじめの一歩』のボクシングシーンには無二の迫力があるに違いない。

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