昭和の漫画史にその名を残し、多くの名作スポ根漫画を生み出した漫画原作者の梶原一騎(高森朝雄)氏。『巨人の星』『あしたのジョー』(いずれも講談社)を筆頭に、令和の世においても色あせることのないビッグタイトルをいくつも世に送り出した梶原氏の功績は、いつまでも語り継がれていくに違いない。
そんな梶原氏の手がけたスポ根漫画には、超スパルタと呼ぶべき猛特訓がつきものだ。『巨人の星』で主人公・星飛雄馬が着用した「大リーグボール養成ギプス」は特に有名だろう。飛雄馬の両腕を鍛え上げるために登場したバネ仕掛けのギプスは、見た目のインパクトも絶大で「ありえない」なんてツッコミすら野暮に思えるほどの強烈な存在感を放っていた。
あまりにも有名な「大リーグボール養成ギプス」だが、梶原作品に描かれた地獄の特訓はまだまだたくさんある。そこで今回は、令和では考えられないほど過酷であり、だからこそ魅力的でもあった梶原作品の壮絶すぎる特訓を紹介しよう。
※本記事には各作品の内容を含みます
■ジョーはチンピラと乱闘スパー、力石は牛を殴り倒す!
まずは、昭和ボクシング漫画の金字塔『あしたのジョー』に描かれた特訓を見てみよう。主人公・矢吹丈は生まれ持った野生の勘を活かしたカウンターを得意としながら、一方で努力も欠かさないボクサーである。
彼が挑んだスパルタな特訓はいくつもあるが、特にぶっ飛んでいるのが、裏社会の人間を巻き込んだ乱闘スパーリングだ。マレーシア出身の野生児ボクサー・ハリマオに勝つには、通常の練習では足りないと考えた丈。裏社会で用心棒として生きるゴロマキ権藤とその取り巻きを相手に、多対一のスパーリングを依頼する。もちろん、丈が「一」の側である。
四方八方から襲いかかるチンピラたちは丈に殴る蹴るの暴行を加え、服をつかんで投げ飛ばすなどやりたい放題。これに対し、丈も負けじとパンチやキックで応酬するからすごい。ボクシングの練習とは思えないほどの光景である。
丈の宿命のライバル・力石徹の特訓もまた凄まじかった。力石といえば地獄の減量が有名だが、実は丈との対戦に備えて「2頭の猛牛を素手で殴り倒す」という奇想天外な練習をやっていたりする。特訓に使われた哀れな猛牛は力石にノックアウトされ、引き車で運ばれるという悲惨な末路を迎えた。
一方は裏社会の荒くれ者と乱闘し、もう一方は猛牛と素手で格闘。共に常人離れしたとんでもない特訓で強さを求める丈と力石は、間違いなく宿命のライバルと呼ぶにふさわしい存在であった。
■バーベルに縛り付けてハチの巣を…『ジャイアント台風』
『ジャイアント台風』(少年画報社)は、伝説のプロレスラー・ジャイアント馬場を主人公に、彼の半生を描いた実録プロレス漫画である。ただし、「実録」とは銘打たれているものの創作エピソードも含まれており、特に作中で馬場氏が取り組む特訓は梶原作品らしさに溢れている。
本作のプロローグで、力道山を頼りにプロレスの世界に飛び込んだ馬場氏は、入門早々、トイレの中で手足に4本のバーベルを括り付けられてしまう。バーベルの重さにまるで身動きがとれない馬場氏のもとに、あろうことかハチがたっぷり入ったハチの巣が投げ込まれるのだ!
無数のハチに体中を刺される痛みに耐えながら、トイレの床を這いずる馬場氏の姿は壮絶のひと言に尽きる。「力道山道場名物の新人歓迎パーティー」らしいが、果たして先輩レスターたちも同じ道をたどってきたのだろうか……。
ほかにも「ボクシンググローブを角に付けさせた牛の突進を受け止める」「ジープに顔を轢かせて苦痛に強い顔面を作る」など、ぶっとんだ特訓が登場する『ジャイアント台風』。のちに馬場氏はこれらの特訓について「(本当にやったら)死んじゃうよ」と語ったとされているが、連載当時の少年たちはどの程度本気にして受けとめていたのだろうか?


