■信じていた正義のシステムによって殺される

 2012年に第1期の放送が開始され、それを皮切りに2014年から第2期が始まった『PSYCHO-PASS サイコパス 2』。本作の第4話「ヨブの救済」は、シリーズ随一の凄惨回として名高い。

 ファーストシリーズから活躍する公安局刑事課二係の監視官・青柳璃彩は、闇落ちした後輩・酒々井水絵に誘導され、医療施設での人質事件に巻き込まれてしまう。

 本作の世界では、精神状態は“色相”として可視化され、その濁り具合で犯罪係数が判断される。だが、犯人は冷静さを保って色相を濁らせないため、システム上は“正常”と判定されて特殊拳銃「ドミネーター」では撃つことができない。

 一方、青柳は犯人の男性に一方的な暴力を受け、下着姿で拘束されてしまう。極限の恐怖とストレスに晒された人質たちだけが、被害者であるにもかかわらず皮肉なことに色相を濁らせていくのである。

 やがて青柳は隙を突いて反撃に出るが、その瞬間、外を包囲していた仲間のドミネーターが作動。犯人と青柳、2者のうち“犯罪係数の高いほう”として彼女を「執行対象者」と判定するのである。そして、遠隔執行により、体は膨張し、彼女は肉片となって吹き飛んでしまった。

 監視官として最後まで抗った青柳が、信じていた法と頼るべき味方の銃によって命を奪われてしまうという、あまりにも残酷な最期であった。

 だが、悲劇はそれだけでは終わらない。助けを求めて逃げ出した人質たちもまた、恐怖と混乱で色相を濁らせた結果、執行対象者として次々公安に処刑されていってしまう。救出作戦だったものは、システムの判断によって、いつしか大量虐殺へと姿を変えてしまうのだった。

 現場に駆けつけたヒロイン・常守朱の「お前たち、何をやっている!」という怒声は、この理不尽極まりない描写を見せつけられた視聴者の声そのものだったように感じる。

 

 希望が砕かれた瞬間の重さは、いつまでも消えない。今回取り上げた3つの場面に共通するのは、誰も悪人ではないのに、“信じていたものが一瞬で崩れてしまう”という残酷さにある。

 明るいハッピー展開が多いアニメだからこそ、こうした瞬間は強烈に焼きつく。ふとした拍子に思い出すだけで、胸の奥がざらりとする。そんな忘れがたい痛みを視聴者に残した、伝説的なシーンであった。

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