■宇宙人にさらわれ、地球侵略の足がかりにされた悲劇

 最後に紹介するのは1974年放送の『ウルトラマンタロウ』第45話「日本の童謡から 赤い靴はいてた…」に登場する山川真理という女性だ。

 宇宙科学警備隊「ZAT」の北島哲也隊員には、幼なじみの少女「真理」が自分のそばからいなくなるという苦い思い出があった。そんな北島隊員のもとに、美しく成長した真理が突然訪問。お互い再会を喜び合う。

 しかし、真理には裏の顔が隠されていた。実は幼い頃に凶悪宇宙人「ドルズ星人」にさらわれた真理は、うろこ怪獣「メモール」に改造されていたのだ。ドルズ星人の命令はZAT本部の破壊であり、この使命を果たすために真理は北島に接近したのである。

 再会を果たした北島と2人きりの時間を過ごしていた際、「何も変わっていない」と話す北島隊員に対し、真理は「私が変わってしまったかもしれないわ」とポツリつぶやく。どこか落ち込んだ様子の真理を元気づけようと、北島隊員は自分の職場であるZAT本部の見学を提案した。

 ただし、ZAT本部のセキュリティは厳しく、荒垣修平副隊長は真理の見学を認めなかった。そのとき北島隊員の「人間よりも機械を信じろって言うんですか」という言葉を聞いた真理は表情を曇らせ、涙を流しながら走り去ってしまう。

 追いかけてきた北島隊員に、真理は「てっちゃん、私を撃って」と懇願。良心の呵責に耐えきれなくなった真理は、惑星ドルズに連れ去られて地球攻撃用の武器に改造され、もうすぐ怪獣メモールに変身してしまうことを明かした。

 だが北島隊員は幼なじみの真理を撃つことができず、やがて彼女は怪獣の姿に変身。その後、ウルトラマンタロウと激闘の末、メモールは空に投げ飛ばされ、そのまま宇宙のどこかへ消えた。

 戦いのあと、空から落ちてきた真理のものと思われる赤い靴を見て、やるせない表情を浮かべる北島隊員。悲しみをこらえながら靴に向けて銃を発射した。

 すべてが片づいたのち、北島隊員は「人間、誰しも大事に取っといた思いに別れを告げなきゃならないことがあるんだ」「こんなふうにして男は成長していくんだから」と前向きに語っていたのが、せめてもの救いだった。


 侵略された地球人側にさまざまなドラマが生まれるように、敵である侵略者にもドラマがある。そんなことを実感させてくれるエピソードばかりだが、いずれの結末もあまりに切ない。だからこそ彼女たちの存在が、今も視聴者の胸に刻まれているのかもしれない。

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