■レゼでもない、ボムでもない、もう一人の「少女」

 現在公開中の劇場版『チェンソーマン レゼ編』で上田さんが演じたレゼの一つの姿は、カフェで働き、天真爛漫で小悪魔的な振る舞いでデンジを惑わす少女。頬を赤らめ、甘い声でデンジを見つめるさまは、彼が恋するマキマへの思いをゆるがせるほどの魔性ぶりだ。

 また、プールのシーンで誘惑するように手招きをしたり、無邪気に笑いながら「デンジ君みたいな面白い人、はじめて」と見つめるシーンなど、見ているこっちがドキドキしてしまうような仕草が所狭しと描かれた。触れた瞬間に消えてしまうような儚さをも兼ね備える彼女に、デンジ同様、序盤で早々に恋に落ちた視聴者も多かったはずだ。

 しかし、その正体は爆弾の悪魔の力を持つ「ボム」であり、デンジの心臓を狙う脅威であることが判明。デンジに見せていた姿は演技であったことが明かされ、そこからはデンジの心臓を狙い、追い詰めていく。

 中でも、彼女の暴走を止めようとする公安に、レゼが「助けて下さ~い」と笑顔で挑発する声は、取り繕った甘い声色の裏に見え隠れする冷たさが、レゼをそれまでとは別の生き物であることをまざまざと見せつけた。その微細な変化こそが上田麗奈さんの魅力でもあり、観客の心をつかんで離さない理由でもある。

 さらに、映画公開の舞台挨拶にて上田さんが「レゼ、ボムとあともう一人いるので見つけてあげてください」と語ったように、本作のラストでは、デンジを惑わすレゼでも、爆弾で戦うボムでもない、もう一つの彼女が描かれている。そのシーンこそ視聴者を“レゼロス”たらしめた理由であり、観客がレゼという人物を本当の意味で理解する瞬間だった。

 まだまだヒットが続くであろう、劇場版『チェンソーマン レゼ編』。上田麗奈さんの細やかな表現力があってこそ実現された、一人の少女が幾重にも変わる姿は、何度見ても強烈な余韻を残してくれるはず。まだ見ていない人たちは、ぜひ劇場で体感してほしい。

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