海南・宮益に湘北・安田、山王・一之倉も…『SLAM DUNK』影でチームを支えた「戦術スペシャリスト」の真価の画像
DVD『SLAM DUNK』第14巻(東映)©井上雄彦・アイティープランニング・東映アニメーション

 井上雄彦氏の『SLAM DUNK』には、沢北栄治や仙道彰といった天才エースプレイヤーの影で、もうひとつの“リアルな凄み”を放つ選手たちが存在する。派手な得点や見せ場は少なくても、彼らの一手がなければ試合の流れはまったく違っていたはずだ。

 たとえば、インターハイ出場を懸けた陵南戦の終盤で3Pを沈め、湘北を救った木暮公延。わずかな出番でも確かな仕事を遂行するこうした選手たちの存在こそが、この作品に現実味を与えているように思う。

 今回は、与えられた役割を完璧にこなし、チームに貢献した“戦術スペシャリスト”たちに注目してみたい。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■常勝・海南の“秘密兵器”・宮益義範

 全国常連の海南大附属において、宮益義範の存在は異彩を放っていた。身長160cm、体重42g。スポーツゴーグルをかけたその姿は強豪校の選手らしからぬ風貌だが、彼はまぎれもなく「勝つための駒」だった。

 湘北戦の前半、海南の高頭監督は意外な采配に出る。桜木花道を封じるため、あえて宮益を投入したのだ。目的は「ミスマッチを作り、桜木の素人としての脆さをあぶり出す」こと。結果、桜木はゴール下のイージーシュートを連続で外し、宮益は狙いどおりの仕事を果たす。

 だが、宮益の真価はそれだけではなかった。冷静に3Pを沈め、一時は湘北に15点差をつける原動力となる。その正確なシュートに、観戦していた記者の相田弥生も「要チェックやわ!」と唸ったほどだ。

 後半では神宗一郎との“ツインシューター”としてコートに立ち、宮城リョータとのマッチアップでは巧みなフェイクで翻弄。攻守の両面で、決して控え選手にとどまらない存在感を放った。

 スター選手がひしめく海南で、素人として入部しながらも、地道な努力で湘北戦での初出場をもぎ取った宮益。その後も宮益は登場、インターハイ本戦の馬宮西戦にも出場を果たしており、まさに常勝・海南を影で支えたスペシャリストだった。

■混乱を鎮めた“静かな司令塔”・安田靖春

 湘北のインターハイ初戦の相手・豊玉は、ハイスコアゲームを得意とする“ラン&ガン”のチームである。試合開始前から、宮城も相手の挑発に乗り、ペースを崩していた。そんな乱戦状態を見て、安西監督が選んだ一手が控えポイントガード・安田靖春の投入である。

 安田に与えられたミッションはただひとつ。「チームを落ち着かせる」こと。ベンチを離れる安田に、安西監督は「君が みんなをコントロールする いいね?」と静かに告げる。

 コートに立った安田は、速攻に走ろうとする宮城を「リョータ ストップッ!!」と制止。あえてスローテンポで攻撃を展開し、キャプテンの赤木剛憲へと確実にボールをつなぐ。チーム全体を冷静に整えるその判断力が、湘北に本来のリズムを取り戻させた。

 結果、0-9でリードを許していた状況から、14-15の1点差まで詰め寄ることに成功。豊玉の得意とするハイスコアゲームを封じたこの流れは、安田のゲームメイクが生み出したものだった。

 安田は、かつて三井寿による“バスケ部襲撃事件”で仲間を守ろうと立ち上がるなど、コート外でも芯の強さを見せてきた人物だ。物語の最後、湘北は宮城をキャプテンとする新体制になっていたが、安田はその傍らで木暮のように全体を支える副キャプテン的存在になるのではないだろうか。

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