
青山剛昌氏による『名探偵コナン』は、1994年の連載開始から30年以上続く長寿作品だ。そのため伏線回収も実にさまざまで、張ってから数年越しで回収される大がかりなものも少なくない。
一見すると取るに足らない出来事でも、ストーリーが進んだ後で見返してみると重要な伏線だったケースも……。中でも読者の注目を集めるのが、やはり主人公・江戸川コナン(工藤新一)が追う「黒ずくめの組織」関連のものだろう。
今回は、そんな黒ずくめの組織にまつわる伏線の中から、特にその細かさに驚かされたものを振り返っていこう。
※本記事には作品の核心部分の内容を含みます
■缶コーヒーを落とす何気ない描写が伏線に…
コミックス59巻、アニメ504話で、シリーズ屈指の人気キャラであるFBI捜査官・赤井秀一が死亡する。コナンに引けを取らない頭脳と冷静さ、そして高い戦闘能力を持った“あの”赤井がである。
この展開は当時のコナンファンを大きく動揺させ、さまざまな議論を呼んだ。だが遺体の指紋が赤井のそれと一致したことから、赤井の死を否定することは難しかった。赤井殺害に関する流れは以下の通りだ。
CIA所属の水無怜奈は黒ずくめの組織に潜入していたが、裏切りの疑いをかけられてしまう。そこで組織を裏切っていないことを証明するために水無に下された指令が、「赤井の抹殺」だった。
組織の幹部であるジンに監視される中、水無は赤井の頭を撃ち、遺体を乗せた車を爆破した。発見された遺体は焼け焦げていたため、外見からは判断できない。しかし遺体の指紋と赤井が触れた携帯電話から検出された指紋が一致したことで、FBIは赤井の死亡を確信する……。
しかしコミックス85巻、アニメ782話で、この死はコナンと赤井が偽装したものだったことが明かされる。彼らの計画により、水無は赤井の頭を撃つふりをして、自殺した組織のメンバーの遺体とすり替えていた。
コナンは自分の携帯電話を触った組織のメンバーがその後自殺してしまったことを、赤井の死の偽装に利用できると考えた。計画を聞いた赤井は、指紋がつかないように、自身の指にコーティングを施す。そのうえでコナンの携帯に触っているところを他人に目撃させていた。
種明かしを聞いてから見返してみると、コミックス58巻、アニメ498話で、赤井が缶コーヒーを落としてしまうシーンが目にとまる。注意深い赤井にしては珍しい、印象的なシーンではあったものの、当時は意味が分からなかった。しかし今にして思えば、指にコーティングをしていたからこそ、うっかり手をすべらせてしまったのだろう。
さらに作者の青山氏は、宝島社の『このミステリーがすごい!2021年版』でのインタビューにて、コーティングを示すために指先のトーンを削っていたことを明かしている。言われないと気付かないほど細かい、しかし説得力のある伏線には、あらためて驚かされた。
■アナグラムでラムの正体が分かる?
黒ずくめの組織の重要人物・ラムの正体を示す、「Time is money」の伏線も見事だった。
組織のNo.2であるラムの正体について明かされたのは、コミックス100巻、アニメ1079話だ。その正体は、毛利探偵事務所の隣にある「米花いろは寿司」で働く板前・脇田兼則である。
しかし実は一部のコナンファンの間では、ラムの正体が判明する以前から、脇田がラムなのではないかと考察されていた。その理由は、ラムがバーボン(安室透)に送ったメールに「Time is money!」という文言があったからだ。
メールの内容は新一の情報を求めるもので、「急げよ バーボン」と急かしてもいたため、「Time is money(時は金なり)」のフレーズに違和感はない。実際ラムも、言葉通りの意味で使っている可能性が高い。だがこの言葉は、メタ的な意味ではラムの正体を示す伏線でもあったのだ。
「Time is money」は日本語に訳すと「時は金なり」、これをローマ字表記すると「TOKIHA KANENARI」だ。そしてそれを並び変えると、「WAKITA KANENORI」、つまり脇田兼則という人物名が浮かび上がってくるのだ。
ラム本人がこのアナグラムを意図して「Time is money」という言葉を使っていたのかは分からない。しかしこういった伏線のおかげで、ラムの正体を考察するコナンファンの楽しみが増えていることは間違いないだろう。