■『ONE PIECE』血で殴る!ルフィが見せた“魂の反撃”

 1997年から連載が続く、尾田栄一郎さんのバトル漫画『ONE PIECE』。舞台はいよいよ最終章へと進み、壮大な物語の行く末から目が離せない。

 そんな本作からは「アラバスタ編」の頂上決戦、主人公のモンキー・D・ルフィと自然(ロギア)系能力者であり、当時は王下七武海に名を連ねていたサー・クロコダイルとの激闘の一幕を紹介したい。

 砂の身体を持ち、あらゆる物理攻撃をすり抜けるチート級の能力を誇るクロコダイルに、ルフィの拳は何度も空を切った。

 だがこの戦いは、単に王国を救うためだけの闘いではない。クロコダイルは国を想い続けるアラバスタ王国の王女、ネフェルタリ・ビビの願いを嘲笑い、民を操って混乱を生み出し、彼女から笑顔を奪った。その非道さを前に、ルフィの怒りは限界を超える。

 やがてルフィは、砂を固める唯一の弱点が“水”であることに気づき、水を武器に反撃を開始。だが、激闘の果てに水は尽き、一度は完全に敗北してしまう。

 それでも立ち上がり、再びクロコダイルに挑むルフィ。水を失い、もはや打つ手はないかに思われたその瞬間。空を切るはずの蹴りがクロコダイルを捉え、続けざまに右拳が顔面をえぐるように叩き込まれた。ルフィは自らの血を拳と足に塗り、その“血の水分”で砂の身体を打ち砕いたのだ。

 最終的には「ゴムゴムの暴風雨(ストーム)」で、遙か上空までクロコダイルを殴り飛ばし勝利。自身の血をも戦いに利用する発想、そして仲間の想いを踏みにじる敵を決して許さない信念。現在も続く長期連載の本作だが、筆者は、これをルフィという男の生きざまを象徴する一撃のひとつだと思っている。

 

 どの一撃にも共通しているのは、“諦めなかった者だけが掴める一瞬の閃き”であると言えるだろう。バトル漫画の魅力は、ただ強い技を出すことではない。自分の限界を超え、誰も思いつかないような発想で突破口を開く。そのドラマこそが読者を熱くさせるのだ。

 「そう来ると思わなかった!」という驚きの裏には、キャラクターの生きざまと作者の巧みな構成力が詰まっている。だからこそ、どんなに年月が経っても、あの渾身の一撃の衝撃は決して色あせないのだ。

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