■政府非公認の巨大組織・鬼殺隊の隠された実態とは?

 さて、鬼殺隊という組織は数百人にも及ぶ隊士がいる巨大な組織であるが、実は「政府非公認の組織」である。作品世界において一般の人々は鬼の存在すら信じていないため、隊服に身を包み刀を帯刀する彼らの姿はどこか異質なものに見えているのかもしれない。

 しかし、一般的な知名度こそないものの、そのルーツは1000年以上前にまで遡る。産屋敷家は代々、先見の明によって莫大な財産を築き、組織の運営資金をまかなってきた。そう考えれば、あくまで非公認というだけで、裏では政財界にも強力なコネクションがあると考えるのが妥当だろう。

 実際に、岩柱・悲鳴嶼行冥がかつて殺人容疑をかけられ死刑囚となった際には耀哉が介入し、その身の上を解放させたという過去もある。これは、産屋敷家が強大な影響力を持っていることを示唆する1つの例だろう。

 もしかすると、政府は市井の混乱を防ぐために鬼の存在を意図的に隠しており、鬼殺隊はそれを受けて、文字通り“暗躍”している立場にあるのかもしれない。

 鬼殺隊という組織は、剣士だけでなく、負傷者の治療や養生をおこなう「蝶屋敷」や、後方支援を担う「隠」、さらに隊士たちを無償でもてなす「藤の花の家紋の家」など、構成員や協力者は想像よりもかなり多いのだろう。その誰もが鬼殺隊に貢献することを決意し、身近な人を奪われた悲しみを抱えながら鬼の討伐を願っている。

 これだけ規模が大きいとシステムやルールが複雑になるのは仕方ないことであるが、その全てを掌握し、トップに立つ耀哉の手腕には、あらためて敬服を覚える。

 

 鬼殺隊は一見すると非情とも思えるシステムや、政府非公認という不安定な立場など、矛盾をも抱えた組織だ。しかし、産屋敷耀哉の卓越したカリスマ性と、平和な世界を願う隊士たちの固い信念が、それらの矛盾を補って余りあるほどの結束力を生んでいるのも事実だ。

 鬼の滅殺という純粋な目的のために存在する鬼殺隊の在り方こそが、『鬼滅の刃』という物語により深みを与えているのだろう。

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