■霊王の“断片”たちはどうなった?
霊王の身体はその後分断され、本編の中でさまざまなキャラクターの「パーツ」として登場する。
たとえば十三番隊隊長・浮竹十四郎は、幼少期に「ミミハギ様」と呼ばれる土着神と結びついて命を救われたが、このミミハギ様こそ霊王の“右腕”であった。浮竹は最終章で霊王殺害による世界崩壊を防ぐため、「神掛」という儀式を行って霊王の力を自身に宿し、命を落とす。
一方、ラスボスであるユーハバッハの精鋭部隊・星十字騎士団(シュテルンリッター)の中にも、霊王の部位を宿す者がいる。ペルニダ・パルンカジャスは霊王の“左腕”とされ、有機・無機を問わずあらゆるものに神経を通し操作する能力を有し、戦闘中に学習と進化を繰り返す異質な存在であった。
霊王の“心臓”と噂されていたジェラルド・ヴァルキリーは、あらゆるダメージを受けることで力を増す「奇跡(ザ・ミラクル)」の能力を発動、幾度も再生を繰り返すなど、不死身に近い特性を持っていた。
スピンオフ小説では、さらなる霊王の断片についても明らかになる。十番隊副隊長・松本乱菊は、かつて藍染によって魂魄の一部を奪われたが、その中に霊王の“爪”が含まれていたことが判明した。また、霊王の“鎖結”を宿す道羽根アウラと、彼女によって霊王の欠片と大量の魂魄から造られた存在・産絹彦禰も登場する。
さらに、完現術者全員が霊王の欠片を宿す存在であるという設定も明かされたことから、初代死神代行・銀城空吾や、“過去改変”の能力を持つ月島秀九郎も霊王の一部を宿していた可能性が高い。特に月島の能力はユーハバッハの“未来改変”の能力と対を成しており、霊王の時間支配的性質に通じるものがある。
このように霊王は、かつて世界を救った全知全能の英雄でありながら、その強大な力ゆえに、王としてではなく「楔」としてのみ存在を許された悲劇的なキャラクターである。その身体は分断され、力はさまざまな者に継承され、意思を持つことも語ることも許されないまま、世界を支え続けてきた。そして、霊王の一部を宿していた可能性のある人物や、その力がもたらした影響については、今なお多くの議論の余地を残している。
強大な力を持ちながらも、あるいはそれだからこそ、世界の均衡を保つための“人柱”となるしかなかった霊王。『BLEACH』の物語は完結したが、彼を本作の裏主人公ととらえることで、作品が内包する「善悪や生死」「浄化と汚染」といったテーマ性が、より読者の心に響くのではないだろうか。


