■ライフルの出力を絞って手動連射でファンネルを撃墜

 小惑星アクシズを巡るネオ・ジオンとの攻防の中で、アムロが操縦するνガンダムと、ニュータイプとして高い資質を持つ少女クェス・パラヤが乗る大型モビルアーマーのα・アジールが対峙する。

 この戦いはα・アジールのファンネル攻撃で火ぶたが切られたかに見えるが、実はクェスよりも先にアムロが「細かい動き」を見せていた。

 α・アジールがファンネルを射出するより一瞬早く、アムロがνガンダムのビーム・ライフルのモードを切り替えるような描写と効果音が挿入されていたのである。

 νガンダムのビーム・ライフルは、先述のとおり出力を変更することが可能だ。ガンプラ「HGUC 1/144 RX-93 νガンダム」の説明書によれば「ビームを圧縮して間欠的に射出することができ、マシンガン的な使用も可能」と書かれている。

 つまり、あの一瞬でアムロはα・アジールがファンネルを放ってくることを予測し、手動操作で連射して撃ち落とすことを想定していたことになる。

 実際にアムロは四方から縦横無尽に襲って来るファンネルによるオールレンジ攻撃を冷静に見極め、ビーム・ライフルの速射で次々と撃墜していった。

 本当に細かい描写なので見逃されがちだが、戦場にて他のニュータイプの存在を察知し、初見のモビルアーマーを目視した直後に、すでにファンネルが来ることを予期した動作をとっていたアムロ。

 すべてのファンネルを撃ち落として処理したあとの「子どもに付き合っていられるか」というセリフも合わせて、まさにアムロが格の違いを見せつけた場面でもあった。

■相手の虚をつく駆け引きで強敵をあっさり撃破 

 地球への落下軌道に入ろうとするアクシズを巡っての攻防の中、アムロはクェスのα・アジール、強化人間のギュネイ・ガスが駆るヤクト・ドーガの2機を同時に相手にする。

 2対1という構図になってもアムロの優位は変わらず、νガンダムはα・アジールの背後をとってとどめを刺そうとした。それを阻止しようとギュネイはビーム・ライフルを放つが、それをシールドで受けたアムロは、次の瞬間に破損したシールドとニュー・ハイパーバズーカを手放す。

 この予想もしないアムロの行動に意表を突かれたギュネイは、そちらに気をとられてνガンダムを一瞬見失うのである。

 もちろんアムロはその隙を見逃さず、狙いすましたビーム・ライフルの一撃でヤクト・ドーガを撃墜。自身の武装を囮に用いる動きは、一年戦争時からのアムロの得意技であり、あまりにもあっさりと強敵を葬る手際の良さに、映画初見時は何が起こったのか分からなかったほどだ。

 ちなみに映画の冒頭、フィフス・ルナの周辺でギュネイのヤクト・ドーガと、アムロのリ・ガズィが激突している。このときにリ・ガズィのバック・ウェポン・システム(BWS)を分離させた際も、ギュネイはBWSのほうに気を取られる場面があった。

 おそらくアムロはこのことを覚えており、ギュネイを撃破するときに同様の策を用いたものと考えられる。


 映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』は、昭和に公開された作品とは思えないほど、戦闘シーンのスピード感と迫力が凄まじかった。だからこそ初見時は気づかなかった、アムロの職人技が光る細かい描写があったことにも驚かされる。

 目立つ派手なシーンは印象に残っているが、公開から何十年も経過し、何度も映像を見返すうちに新たな発見がある点も、富野由悠季氏が生み出した『逆襲のシャア』という作品の素晴らしさを物語っているように思える。

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