
野球漫画の歴史に残る名作『MAJOR』(満田拓也氏)の見どころに、主人公・茂野吾郎が魅せる破天荒で豪快なピッチングがある。高校時代は150km/h、メジャーリーグでは160km/hを超える剛速球は読者を熱狂させてくれるが、すべてはそれを受け止めてくれる捕手の存在があってこそ成立するのだ。
『MAJOR』で吾郎を支える相棒を1人挙げるならば、やはり佐藤寿也になるだろう。吾郎に誘われて野球を始めた寿也はさまざまな苦難に襲われながらも努力を続け、メジャーリーガーまで登り詰めた。本作最高峰の天才捕手である寿也だが、その半生は吾郎に負けず劣らず波乱に満ちたものである。
そこで今回は、吾郎の最高のパートナーである佐藤寿也を徹底的に深掘りし、その歩みと実力を伝えていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■一家離散も経験した不憫すぎる半生
小学生から野球を始め、名門・海堂学園高校で全国制覇を達成。ドラフト1位でプロ入りし、日本で実績を積んでからメジャー挑戦を果たし、第一線で活躍……と、野球選手としての経歴だけを見れば順風満帆なエリート街道を歩んでいる寿也。だが、私生活ではかなりの苦労人といえる。
吾郎との出会いをきっかけに野球を始め、名門・横浜リトルで中心選手となった寿也。しかし、小学6年生の時、借金苦を理由に両親が幼い妹を連れて夜逃げし、寿也だけ置き去りにされるという憂き目に遭う。
経済的にも精神的にも限界を迎えた彼は横浜リトルを退団し、中学では部活の軟式野球に身を置くしかなくなった。家族に捨てられた出来事は彼の大きなトラウマとなり、大人になってからも引きずり続けることになる。
なんとも不憫な少年期だが、そんな時期にも祖父母という救いがあった。決して裕福ではなかったが、優しい祖父母は孫の幸せを案じ、寿也が学費を理由に海堂高校の進学を諦めた時は「お金の心配なんかしなくていい!」と、力強くその背中を押した。彼らがいなければ、天才キャッチャー・佐藤寿也は世に出ていなかったかもしれない。
■攻守万能の捕手! 全盛期にはメジャーで本塁打王も
選手としての寿也をひと言で表すなら「守備も打撃も完璧なオールラウンダー」だろう。
まず守備面では、扇の要であるキャッチャーとして卓越した能力を持ち、冷静な計算と強気な姿勢を織り交ぜた配球でバッターを巧みに翻弄する。肩も抜群に強く、なにより吾郎のストレートを捕球できるキャッチングも素晴らしい。まさに、隙のない名捕手といえるだろう。
打撃面においては、守備以上に光るものがある。抜群の勝負強さで満塁や逆転のチャンスでは驚異的な集中力で結果を残してきた。寿也のホームランで勝利した試合は枚挙にいとまがない。吾郎も寿也の打棒を頼りにしており、“寿也が最強のバッターだ”と何度も語っている。
その打撃力はメジャーリーグでも通用し、続編『MAJOR 2nd』では、捕手でありながら本塁打王のタイトルを獲得したことが明かされた。現実のメジャーリーグにおいて、捕手が本塁打王に輝いた例は20世紀以降ではわずか2人、今年大活躍のカル・ローリー選手(シアトル・マリナーズ所属)を含めても3人だけである。
相棒である吾郎は2度、サイ・ヤング賞を獲得しているが、それに比肩する偉業を寿也も成し遂げているのだ。