
バトル漫画の世界には、読者の予想を裏切るいくつもの必殺技が存在する。なかでも特に異彩を放つのが、“知らなければ絶対に防げない”特性を持つ、「初見殺しの技」だ。
これは、圧倒的なパワーやスピードで相手をねじ伏せるのではなく、特定の条件を満たしたが最後、理不尽なまでに勝敗を決してしまう技である。一瞬の油断が、キャラクターにとって致命的な結末を招く、まさに“初見殺し”と呼ぶにふさわしいものだ。
今回は、数あるバトル漫画の中から、とりわけ読者に強烈な衝撃を与えた初見殺しの技を厳選して紹介していく。
※本記事には各作品の内容を含みます
■『BLEACH』斬魄刀と肉体を奪うメタスタシアの「触手」
久保帯人氏の『BLEACH』といえば、死神たちが放つ卍解や、滅却師(クインシー)の完聖体(フォルシュテンディッヒ)といった、スタイリッシュかつ迫力ある必殺技が思い浮かぶ。
だが、そうした華々しい能力とは一線を画す、異質かつ理不尽極まりない“初見殺し”も存在する。それが、虚(ホロウ)であるメタスタシアの能力だ。
アニメ第49話「ルキアの悪夢」にて。処刑を待つ朽木ルキアの回想の中で登場したメタスタシアは、“自身の触手に触れた者の斬魄刀を消滅させ、さらに相手の肉体を乗っ取る”という厄介な能力を持っていた。
1日に1度しか使えないという制約こそあるが、それを知らなければ防ぎようがなく、触れた瞬間、詰みへ直結するチート級の技だったのである。
物語ではまず、護廷十三隊十三番隊副隊長・志波海燕の妻・都がこの能力の餌食となり、その後、妻を失った悲しみを胸に1人で仇討ちに挑んだ海燕までもが、メタスタシアの能力を知らぬままそのタコ足のような触手を掴んでしまったことで斬魄刀を失い、ついには自身の肉体をも支配されてしまう。
メタスタシアに乗っ取られ、ルキアに襲いかかる海燕。その姿を前に、ルキアは刀を構えながらも動けずにいた。だが、最後の瞬間、海燕は自らの意思でルキアの刃に飛び込み、己の命と引き換えにメタスタシアを葬ったのである。
「ありがとな」と最期に言い残して逝った海燕。だが、この悲劇的な出来事は、ルキアの心に消えることのない罪悪感と深い心の傷を刻み込むことになったのである。
■『ジョジョの奇妙な冒険』空間を抉り取るスタンド「クリーム」
荒木飛呂彦氏の大人気シリーズ『ジョジョの奇妙な冒険』。そのなかでも第3部「スターダストクルセイダース」において、DIOの側近として登場したヴァニラ・アイスのスタンド「クリーム」は、シリーズ屈指の“初見殺し”能力として名高い。
その能力は“暗黒空間につながる口で、飲み込んだもの全てを消滅させる”という、シンプルかつ致命的なもの。さらに使用者であるヴァニラ・アイスとスタンドもその口の中に入ることで姿を完全に消せるため、空間そのものをえぐり取るように奇襲を繰り返すことができる。この神出鬼没の奇襲は防御のしようがなく、攻撃が直撃すれば即消滅。まさに一撃必殺のスタンドだった。
アニメでは42話から3話にわたって描かれた「亜空の瘴気 ヴァニラ・アイス戦」で、その恐怖が存分に表現されている。
仲間を庇ったモハメド・アヴドゥルは一瞬で飲み込まれ、存在ごと消滅。続いてイギーも瀕死の重傷を負い、ジャン・ピエール・ポルナレフまでもが絶体絶命に追い込まれていく。
仲間が次々と理不尽に消されていく展開に、キャラクターたちと同じく多くのファンも絶望感を味わわされたことだろう。
しかし最後は、イギーが決死の覚悟で見せた捨て身の行動とポルナレフの機転によって隙を突かれ、吸血鬼化した体も、DIOへの盲目的な忠誠心が仇となり、太陽の光によって消滅する。
ヴァニラ・アイスの「クリーム」は、ジョジョ第3部を語る上で外せない最凶のスタンドであった。