恋愛と夢、両方追いかける!『ご近所物語』幸田実果子に『こどものおもちゃ』倉田紗南…90年代『りぼん』読者が勇気をもらったヒロインの画像
『ご近所物語』DVD-BOX紹介(東映アニメーション公式サイトより) ©矢沢漫画制作所/集英社・東映アニメーション

 小中学生を中心に絶大な人気を誇る少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)。1955年の創刊から、今年で70周年を迎えた本誌は、昔も今も変わらず多くの“りぼんっ子”たちに夢や希望を届け続けてきた。

 特に、数々の名作が生まれた「りぼん黄金期」と呼ばれる1990年代の作品には、恋愛だけでなく、自分の夢にひたむきに奔走する強い意志を持ったヒロインが多く登場した。

 そこで今回は、恋も夢も諦めず、自分の人生を切り開いていった魅力溢れるヒロインたちを、厳選してご紹介しよう。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■夢のため、大好きな人と離れることを決意…『ご近所物語』幸田実果子

 1995年から連載が始まった矢沢あい氏の漫画『ご近所物語』は、服飾デザイン科に通う高校生・幸田実果子を主人公に、彼女が夢に恋に奮闘する姿が印象的な作品だ。

 実果子の夢は「自分のブランドの店を持つこと」。それを実現するため、彼女は服のデザインや縫製の勉強に明け暮れていた。

 そんな彼女の心を悩ませていたのが、生まれた時から隣に住む幼なじみ、山口ツトムとの関係だった。兄弟同然に育った2人だが、高校生になったツトムが人気バンドのボーカルに似ているとモテ始めたことで、実果子には複雑な感情が芽生える。ツトムのまんざらでもない様子にモヤモヤとし、時に苛立ちながらも、それが恋心であるとはっきりと自覚できずに過ごしていた。

 紆余曲折の末、実果子のこの恋は実ることとなる。2人は互いの気持ちを確かめ合い、晴れて恋人同士になったのだ。だが、実果子がファッションショーでグランプリを獲得し、ロンドン留学の権利を勝ち取ったことで大きな転機が訪れることとなる。

 ツトムと離れることに不安を感じ、恋と夢を天秤にかけ思い悩む実果子。ツトムとの関係がうまくいっていたこともあり、一度はロンドン留学を諦めようと決意する。

 しかし、友人の神崎リサや、担任の浜田、先輩の如月星次らに説得され、さらにツトムから「笑ってバンザイしてありがたく行って来い!」と背中を押されたことで、彼女は考えを変え、ロンドンへ渡ることに。

 夢のため、大好きな恋人と離れるという大きな決断を下した実果子。彼女はロンドンでも天真爛漫な魅力で多くの友人に恵まれ、のちに自身のブランド「HAPPY BERRY」を立ち上げて大成功を収めている。

 デザイナーになるという夢を全身全霊で追いかけ続けた実果子の姿は、多くの読者に勇気と刺激を与えた。彼女が立派なデザイナーになった姿を垣間見ることができる続編『Paradise Kiss』も、ファンには必見である。

■遠恋を乗り越え女優としても成功!『こどものおもちゃ』倉田紗南

 小花美穂氏の漫画『こどものおもちゃ』は、人気子役として活躍する倉田紗南を主人公に、学校生活と芸能界という2つの世界で生きる彼女の恋や苦悩を描いた物語だ。

 紗南は小学6年生にして、映画やドラマに引っ張りだこの売れっ子子役だった。しかし、彼女が幼少期から芸能活動を続けてきたのには、ある理由があった。

 紗南は、生みの母が訳あって彼女を育てることができず、作家・倉田実紗子に養子として育てられた過去を持つ。

 実紗子は紗南の本当の母親を探すため、計画を立てる。それは紗南を人目につきやすい芸能界で有名にし、その後、自身が執筆した書籍を通じて、紗南の本当の母親へメッセージを送ろうとしたのだ。この計画は実行され、紗南の母親はあっけなく見つかる。

 女優としての最大の目的であった“本当の母親を探すこと”が達成されたあと、紗南は一度は芸能界引退を考えている。しかし、大きな作品へのオファーをきっかけに、再び女優魂に火が付き、ますます飛躍していくこととなる。

 物語終盤では、かつて宿敵だった羽山秋人と恋人同士になる紗南。一筋縄ではいかない恋愛模様にも決着がつき、ようやく平穏が訪れたのも束の間、秋人が右手に麻痺が残る大怪我を負ってしまう。

 秋人の将来を案じた父親の勧めで、彼は本格的な治療のため、アメリカへ渡ることが決まる。幸せの絶頂だった2人は、突然の遠距離恋愛を強いられることとなった。

 この事実に紗南は大きなショックを受け、精神的に追い詰められてしまう。そしてついには表情がなくなってしまうという、芸能人としては致命的な症状、通称“人形病”(前例がないため実紗子が命名)を発症する。

 それでも2人は未来を信じて覚悟を決める。秋人は渡米し、紗南は病を克服。その後はますます仕事に打ち込み、パーソナリティーを務めるラジオ番組が大人気になったりと、女優としても確固たる地位を築いていく姿が描かれ、物語は終わっている。

 なお、本作の後日談を描いた『Deep Clear』では20代半ばになり、有名女優として第一線で活躍する紗南の様子が描かれている。気になる方はぜひチェックしてみてほしい。

■彼の夢も全力で応援する『ハンサムな彼女』萩原未央

 吉住渉氏のヒット作『ハンサムな彼女』もまた、芸能界で奮闘するヒロインの姿が描かれた作品だ。

 主人公は、新人女優として売り出し中の萩原未央。彼女が芸能界入りしたきっかけは、隣に住む片想いの相手、森本輝臣だった。輝臣は子役時代から活躍する人気俳優で、未央は彼の家に遊びに行った際にたまたま出会ったプロデューサーにスカウトされたのだ。

 当初は「てるちゃん(輝臣)のそばにいたい」という純情な乙女心から芸能生活を頑張っていた未央。デビュー作以降、輝臣との共演機会に恵まれなかったが、彼が主演を務めるスペシャルドラマへの出演が決まったことで、彼女の恋は大きく動き出す。

 しかし、そのドラマで輝臣とW主演として抜擢されたのは、未央の親友でありアイドルの沢木彩だった。2人がキスシーンを演じると知り、大きなショックを受ける未央。さらに自身にも年上俳優とのキスシーンがあると知り、“ファーストキスは輝臣がいい”と意を決して告白するも、あっさりとフラれてしまう。

 その後、撮影現場で彩と共演する輝臣の姿を見て、彼が彩に惹かれていることを察し、未央の淡い初恋は終わりを告げた。

 失恋を乗り越え、未央は女優業に専念するようになる。そんな彼女が次に惹かれていくのが、スペシャルドラマで共同演出家として出会った熊谷一哉だった。「映画監督になる」という夢にまっすぐ突き進む姿に、未央はだんだんと心を奪われていく。

 一方、一哉もまた、未熟ながらも人を惹きつける魅力のある未央に可能性を感じ、自身が初めて監督を務める映画の主演に彼女を抜擢。こうして、2人の初めての映画制作が始まっていくのだった。

 好きな人のそばにいたいということから始まった芸能生活は、いつしか女優として大成したいという強い意志へと変わっていった。そして、映画監督を目指す一哉に触発され、未央もまた、女優として大きく花開こうと夢を追うようになる。

 作中では、自身が一哉の夢を妨げる足枷になっていると感じ、潔く身を引こうとするなど、一哉の夢を自分のことのように応援していた姿も印象的だった。

 最終的に、日本のみならず、ハリウッドへと2人の夢の舞台は大きく広がっていく。恋も夢も諦めなかった2人の未来を覗いてみたくなるようなラストは必見だ。

 ちなみに、本編のあとがきにはファン待望のウェディング姿の2人が書き下ろされているため、彼らの未来が気になる人は、ぜひチェックしてみてほしい。

 

 恋愛だけではなく、自らの夢にも真剣に向き合っていた『りぼん』のヒロインたち。彼女たちは時に、大好きな人と離れる決断を下すこともあった。

 幾多の苦難を乗り越え、恋も夢も手に入れていくその物語は、少女漫画らしいときめきと感動で読者を楽しませてくれる。

 かつて多くのりぼんっ子を勇気づけてくれた、名作のヒロインたち。現代を生きる私たちにもきっと新たな感動を与えてくれるはずだ。この機会に、ぜひ読み返してみてはいかがだろうか。

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