■ファンが待つ、よしもと作品の新作について

 寡作で知られるよしもと氏だが、気になる新作について、「漫画は今も描いています。目が悪くなっちゃってつらいんですけど、3年前ぐらいから進めていたネームが200ページほどあります」と現在の創作状況を語る。

 原作として他の作家に絵を描いてもらう企画が進んでいたが、現在は停止しているという。その理由が現代社会の激変だった。

「ウクライナとロシアの問題とかを見据えた視点で描いていた漫画だったんですが、ネームを進めている間に色々なことが起こってしまったんです。安倍晋三元首相が撃たれて死んでしまったこともそうですが、フィクションよりもフィクションじゃないかみたいなことが次々起こる。そしてガザとイスラエルの問題が起きて、そこで完全に筆が止まってしまったんです。プロットを見直すとかそういったレベルではなく、もっと根本的な。エンターテインメントって何なのと、その疑問に至ってしまった」

 よしもとよしとものファンの中には『COMIC CUE』Vol.200に掲載された『魔法の国のルル』を覚えている人も多いだろう。魔法少女ものの同作は前後編として予告されていたが、前編のみが掲載された後、後編は発表されず、現在まで未完となっている。

「『魔法の国のルル』が前編だけで止まってしまったのは、予定していた話が現実で起こってしまったからなんです。それも現実の事件があまりにもひどすぎて。これは描けないと判断をした。

 今描いている200ページのネームも同じで、2000年の小学生と2025年の小学生は見ているものがまったく違うと思うんです。全然違う世界を見ているわけで、だから当時の視線、視点で同じ物語を描くわけにはいかない。そこを更新しなきゃいけないんだけど、そのスピードがあまりにも早く、みんな忘れていくから、なかなか難しいんです」

 しかし、希望もある。よしもと氏は2020年に、新型コロナウイルスの影響下を舞台にした50名以上の漫画家による『コミックDAYS』のリレー企画で、『OHANAMI 2020』という短編を発表。よしもと氏の10年ぶりの新作は発表すぐから大きな話題を集めた。

「『OHANAMI 2020』で今現在が描けて、傑作を描いたという自信が今でもある。それまでは過去の作品を出すなんてカッコ悪いよな、という気持ちがあったんですが、あれで今現在の自分の漫画が描けたから、過去へのこだわりもすっかり無くなった。『青い車』を復刊してもいいかな、とようやく思えるようになりました。というのも、自分の感覚としては今回の『青い車』の中に『OHANAMI 2020』が入っていても何の違和感もないんですよ、やっていることが同じだから」

 コロナ禍でエンタメ分野にも暗いムードが漂う中、自身が手がけた久々の新作が今回の『青い車』復刊の決断に繋がった。

「長編の他には短編のネームもストックがあります。それは時代や世界情勢に左右されない昔の話だから、それだったら、いつでも描けるっていうのがある。まあ、折を見て描こうとは思ってます」

 90年代に生まれた作品が、30年の時を経て再び読者の手に渡る。時代を超える普遍性を目指して描かれた物語は、果たして新しい世代にどのようなバトンを手渡すのだろうか。よしもと氏の願いが込められた新装版『完本 青い車』が、次の世代の創作者たちに新たなインスピレーションを与えるのは間違いないだろう。

■よしもとよしとも
1985年、4コマ漫画『日刊吉本良明』でデビュー。その後「レッツゴー武芸帖」「東京防衛軍」「よしもとよしとも珠玉短編集」などを発表。1995年発表の短編『青い車』を表題作にした短編集が、2025年、30年の節目で「完本 青い車」として新装刊行。2020年、コロナ禍の格差日本を描いた短編『OHANAMI 2020』を発表し、現在の代表作として、講談社「コミックDAYS」で無料公開中。

■『完本 青い車』
2025年9月29日(月)より一般発売
収録内容:「青い車」(1995年)/「オレンジ」(1996年)/「ツイステッド」(1995年)/「マイナス・ゼロ」(1995年)/「一人でお茶を」(1996年)/「NO MORE WORDS」(1995年)/「銀のエンゼル」(1991年)/「ライディーン」(1997年)/2025年版セルフライナーノーツ収録
サイズ:A5/並製/200ページ
定価:【一般書店】1,800円(税込1,980円)

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