■「パラパラと気軽に開ける本にしたい」

 このような経緯で描かれた『青い車』の他、シリーズ最終話である『ライディーン』を追加収録して復刊した『完本 青い車』。寡作で知られるよしもと氏の90年代の名作青春漫画の復刊は発表からすぐに大きな話題となり、江口寿史氏との対談や、サニーデイ・サービスの曽我部恵一氏との対談など、企画されたイベントのチケットはいずれも瞬く間に完売となった。それだけ多くの人にとって、よしもと作品への思い入れがあるということだろう。

 復刊は箱入りの豪華本にする企画もあったというが、「箱入りだと棚にしまってしまいますから、そうではなく、パラパラって気軽に読めるものにしたかった」と、通常仕様のコミックスとなった。

「こんなことを言うとおこがましいですが、音楽で言うとオーティス・レディングとかね、古いけれどいざ久しぶりにレコードを聴くと“やっぱりいいよな”って感動しちゃうじゃないですか。漫画も同じで、『青い車』は96年のコミックスですが、部屋に遊びに来た友だちが“なにこれ?”って手にとってくれるような本にしたかったんです」

 音楽愛好家らしい比喩で、よしもと氏は説明を続ける。

「レコードも壁に飾るってことはしないかな。けっこう前、めちゃくちゃ盤質がいいカーティス・メイフィールドの1stの米初回盤を奇跡的に購入したんですが、とにかく綺麗なんですよ。“こんなの手に入っちゃったよ!”って感動したんだけど、あまりにも状態が良いもんだから聴けないんですよね。傷つけちゃったらどうしよう……、聴いてる途中に地震がきて針が揺れたらどうしよう……って心配になっちゃって(笑)。

 でも“それじゃダメじゃん!”って思うんですよね。レコードは聴かないと意味がない。聴くのにビクビクするんじゃダメなんですよ。漫画も同じで、豪華本にする必要はまったくない。普通の本にして、なるべく若い子に手に取ってもらえる形にしたかったんです。『完本 青い車』は、“勝手に家にあった”的な、そういう本として、多くの人に読んでいってもらいたい」

 漫画家・よしもとよしとも氏が語る30年前の転換点と、現代に甦る実験精神。後編では、同時収録作品『ツイステッド』に込められた「乗り移りモノ」への仕掛けと、手塚治虫から学んだ短編の極意、そして現在進行中の新作について詳しく伺った。

■よしもとよしとも
1985年、4コマ漫画『日刊吉本良明』でデビュー。その後「レッツゴー武芸帖」「東京防衛軍」「よしもとよしとも珠玉短編集」などを発表。1995年発表の短編『青い車』を表題作にした短編集が、2025年、30年の節目で「完本 青い車」として新装刊行。2020年、コロナ禍の格差日本を描いた短編『OHANAMI 2020』を発表し、現在の代表作として、講談社「コミックDAYS」で無料公開中。

■『完本 青い車』
2025年9月29日(月)より一般発売
収録内容:「青い車」(1995年)/「オレンジ」(1996年)/「ツイステッド」(1995年)/「マイナス・ゼロ」(1995年)/「一人でお茶を」(1996年)/「NO MORE WORDS」(1995年)/「銀のエンゼル」(1991年)/「ライディーン」(1997年)/2025年版セルフライナーノーツ収録
サイズ:A5/並製/200ページ
定価:【一般書店】1,800円(税込1,980円)

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