■敬意をもって遇された「最強の客将」

 続いての老将は、銀河帝国軍の「ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ」提督である。初登場時は58歳と老将と呼ぶにはやや若いが、それでもラインハルト周りの提督の若さを考えると、老提督と呼ばれるのも無理はない。

 ラインハルト麾下で「双璧」と呼ばれたミッターマイヤーとロイエンタールの両名をして、メルカッツのことを「全宇宙で5本の指に入る用兵家」と評したほどの指揮官である。

 ゴールデンバウム王朝の宿将として貴族連合軍を率い、新皇帝を擁するラインハルト一派と戦ったが、わがままな貴族たちに振り回されて敗北。旧王朝の終焉とともに自害しようとするが、彼を慕う副官のシュナイダーに止められ、自由惑星同盟に亡命することになる。そして彼が頼ったのは、当時イゼルローン要塞に駐留していたヤン・ウェンリーだった。

 敵陣営の宿将とまでいわれたメルカッツを、ヤンは客員提督(ゲスト・アドミラル)として招き入れる。亡命直後のメルカッツは引け目を感じているような描写もあったが、ヤンが不在のときは要塞の駐留艦隊を預かって圧巻の艦隊指揮を披露。見事にイゼルローン要塞の危機を救っている。

 亡命後も旧帝国の軍服をまとい続け、常に一歩引いたところからヤンたちを見守っていたところにメルカッツという男の矜持を感じた。

 ヤンの死後は後継者であるユリアン・ミンツを影から支え、彼の成長に大きな影響を与えたひとりといえる。そして最後までヤン艦隊の面々とともに帝国軍と戦い、最後は帝国軍の猛将ビッテンフェルト提督の艦隊の攻撃を受けて戦死した。

 自由奔放なメンバーが多いヤン艦隊とは一見相容れない寡黙で生真面目な性格ではあるが、彼を悪くいう者は誰一人としていなかった。最後まで敬愛されていたことがうかがえる。

■「生きた航路図」の異名をとる艦隊運用の達人

 最後に紹介するのは、ヤン艦隊を最後まで支え続けた名将「エドウィン・フィッシャー」だ。作中で年齢についての言及はないが、銀髪で立派なひげをたくわえた壮年の人物として描写されている。

 艦隊運用の達人として知られ、1万隻を超える大艦隊でさえ手足のように動かす職人技を見せる。ヤン艦隊が「不敗」と称されたのもフィッシャーの艦隊運用があってこそとまでいわれた。

 メルカッツ同様、フィッシャーもヤン艦隊の中では寡黙なタイプで、自己主張する場面はほとんどない。ヤンが立案した作戦を、着実に実現する最高の仕事人だった。

 そんなフィッシャーが、珍しく自分のことを冗談めかして語った場面が印象的だ。戦いを目前にしたフィッシャーが、「最近、ようやく私も艦隊の機動に自信がもてるようになってきました」とヤンに語ったのである。

 ヤン艦隊の屋台骨として艦隊運用の名人と称されてきた奥ゆかしい男が、やっと自分の能力に自信を持ち始めたような場面。だがこのセリフを最後に、戦場で命を落としたのだから皮肉なものだ。

 彼がどのような最後を遂げたのかは語られず、ヤン艦隊の縁の下の力持ちらしく静かに退場することとなった。だがヤン艦隊の多くのメンバーが彼の死を悼み、慕われていたことがよくわかる。


 ラインハルトやヤンのように圧倒的なカリスマ性を持ち、戦場では華々しい戦果をあげる存在に比べると、老将たちは地味な存在だったかもしれない。しかし積み重ねた経験を武器に、若い提督たちに立ち向かう老人たちの活躍は『銀河英雄伝説』の中で確かな輝きを放っていた。

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