
1979年から放送された『機動戦士ガンダム』は、地球連邦軍とジオン公国軍の戦いを中心に描かれた物語である。主人公のアムロ・レイは連邦サイドに属していたが、連邦とジオンはそれぞれが異なる「正義」のために戦っていた。
しかし、続編となる『機動戦士Zガンダム』では、悪名高い組織として地球連邦の特殊部隊「ティターンズ」が台頭する。ジオンの残党勢力を掃討する目的で設立されたティターンズは、いき過ぎた地球至上主義を唱え、エリート意識の強さから所属軍人も増長していく。
また組織内では過激な武闘派が力を握り、毒ガスによって1500万人の民間人を虐殺した「30バンチ事件」、失敗に終わったがエゥーゴの本拠地がある月面都市・グラナダを狙った「コロニー落とし」などを決行。非人道的な手段を平気で用いた。
『Zガンダム』の作中では物語序盤からティターンズの横暴が描かれており、総司令官のバスク・オムを筆頭に、悪人たちの巣窟と認識している人も多いことだろう。
しかしそんなティターンズの中にも、自組織のやり方を快く思わない気骨ある軍人たちがいた。そこで今回は非道な組織においても自身の信念を貫いた、ティターンズの「良心」ともいえる男たちを深掘りしていこう。
※本記事には作品の内容を含みます。
■正義感の強い青年士官「アジス・アジバ」
ダカールの守備隊に所属するアジス・アジバという若手士官は、初登場時から好青年ぶりを発揮する。彼は、エゥーゴの支援組織「カラバ」の一員でありジャーナリストのベルトーチカ・イルマが検問の連邦兵士からセクハラを受けそうになったところを助けている。
その後、エゥーゴがダカールの連邦議会を占拠した際、アジスはアッシマーに搭乗して出撃。そのときアジスは、「街の上だ、ライフルの使いどころを間違えるなよ」と仲間に警告する常識人ぶりを披露した。さらには街に落ちそうになった友軍機を懸命に助けようとするなど、戦闘中でありながら常に市民に危険が及ばないよう動いていた。
そんなアジスは、混迷の時代だからこそすべてを正しく統括できる軍隊が必要であるというティターンズの思想を信じる男だった。しかし、議会放送を武力で潰そうとするティターンズの強引なやり方や、エゥーゴのいちパイロットという仮面を脱ぎ捨てて表舞台に出たシャア・アズナブルの演説を聞いて、次第に疑問を抱き始める。
葛藤の末、市街への被害を顧みずに戦いを繰り広げるジェリド・メサの前に立ちはだかったアジス。「ティターンズが正しいのなら議会で証明すべきだろ」と、あくまで対話を重視する姿勢を示す。
しかし、そんな彼の真っ当な想いはエリート思想の塊であるジェリドには通じず、バイアランのビームで撃ち抜かれてしまう。最後はアッシマーの中で気を失った様子が描かれたが、彼の生死は不明である。
純粋に人としても尊敬できた青年だけに、一命を取り留めたと信じたい。己の信念と柔軟な思考を持ち合わせ、考えることと行動することをやめなかった彼こそ、ティターンズの「良心」と呼ぶにふさわしい。
■中間管理職のかがみ「ガディ・キンゼー」
ティターンズ所属の重巡洋艦「アレキサンドリア」の艦長となるガディ・キンゼーは、優れた指揮官であり、有能な中間管理職でもあった。
彼は一年戦争を生き抜いた叩き上げで、経験豊富なだけあって戦術にも長けていた。その手腕で元ホワイトベースの艦長ブライト・ノアとも互角に渡り合うどころか、アーガマの動きを読み切って追い詰めたことさえあった。
もともとティターンズの総司令官バスクの腹心であるジャマイカン・ダニンガンの副官を務め、サポート能力の高さを見せていた人物。人望のないジャマイカンにかわって血気盛んなジェリドや、野獣のように荒々しいヤザン・ゲーブルといったクセの強いパイロットたちをうまくまとめあげていた。
そんなガディは、ティターンズの指揮官の中では比較的まともな人物で、30バンチ事件も含めて民間人に犠牲の出る作戦に対しては不満を抱いていた。しかし第29話では結局上の命令に従い、サイド2の降伏を無視して毒ガス攻撃を仕掛ける作戦を指揮している。
この作戦はエゥーゴに阻止されたが、軍務とあらば納得のいかない命令も遂行せざるを得ない職業軍人のつらさを表していたといえるだろう。
しかし上官だったジャマイカンの死後は、彼に対する不満を隠さなくなり、ティターンズのやり方に強い嫌悪感を示すようになる。組織には不可欠な有能な軍人だったが、最後はグリプス2から放たれたコロニーレーザーを避けられずに散った。
もしガディが選んだ道がティターンズでなければ、弱き者を助ける優秀な軍人として、その能力を思う存分発揮できたのではないかと考えてしまう。もしくは、早い段階で彼がティターンズのトップに立っていれば、組織の方向性自体、大きく変わっていたかもしれない。