■患者に「死ね」と言い放った…「宝島」
次は、ブラック・ジャックが怒りをあらわにし、悪党たちを完全に見捨てたエピソード「宝島」を紹介したい。
ある日、ブラック・ジャックの資産を狙った悪党3人組がやってきて、彼を誘拐して拷問する。やがて沖縄の小さな島にヒントがあると知った悪党たちは、その島へブラック・ジャックを連れて行き、かつて彼がお世話になった看護師が眠る墓を荒そうとする。
「神聖な墓を荒すなっ」と、ブラック・ジャックが激昂するも、悪党たちはその墓を破壊しようと爆弾をしかける。しかしその時、潜んでいた毒蛇のハブが襲い掛かり、悪人たちはそれぞれ噛まれてしまうのだ。
そもそもこの島は、ブラック・ジャックが美しさに惚れて買い取った島であり、宝などは存在しなかった。すべては、おろかな悪党たちの思い込みだったのである。
免疫血清を打っていてハブの毒が効かないブラック・ジャックに対し、「ま 待ってくれ……」「つれて行ってくれえーっ」と命乞いをする悪党たち。だが、ブラック・ジャックは「死ね」と、吐き捨てた。
数あるエピソードの中でも、もっとも悪党たちの自業自得な末路が際立つエピソードだといえるだろう。
■因果応報の結末には手を出さない…?「報復」
「報復」は、ブラック・ジャックが医師法違反で逮捕されてしまうエピソードだ。
ある日、ブラック・ジャックは日本医師連盟に呼び出され、無免許医療をとがめられる。そこで医師免許を取得し、正当な報酬だけを受け取るように命じられるも、これを拒否したため、医師法違反で逮捕されてしまう。
ちょうどそんな折、イタリアの大富豪・ボッケリーニが、難病の孫・ピエトロを救ってくれとブラック・ジャックの元を訪ねる。しかし、刑務所にいる彼にはどうすることもできない。
権力を駆使し、ブラック・ジャックを釈放しようとするボッケリーニだが、医師連盟の会長が行く手を阻み、それは叶わなかった。そうこうしている間にピエトロの病状は悪化し、ついに命を落としてしまう。
最愛の孫を失ったボッケリーニは怒り、報復として医師連盟の会長の息子を銃撃して日本を去る。瀕死となった会長の息子を助けられるのはブラック・ジャックのみ。会長は息子の手術を頼み、医師免許も差し出すのだが、しかしブラック・ジャックはそれを目の前で破ってしまう。それでも会長は「たのむ……わたしのむすこを救ってくだされ…!」とブラック・ジャックにすがりつくのであった。
わざわざイタリアから来て手術を依頼する患者の要望を無視し、自分の立場を優先してブラック・ジャックを釈放しなかった会長。その後、自分がボッケリーニと同じ立場になったのは、因果応報とも言える結末だろう。
最終的にブラック・ジャックが会長の息子を助けたかどうかは描かれておらず、その後の行方も気になるところである。
『ブラック・ジャック』は、弱い者を助ける人情味あふれる物語が多い一方、法外な金額を請求するなど、単純に勧善懲悪のストーリーとは言い難い。
それでも人の道を外すような悪人に対しては、断固として手術を拒み、ある意味、天罰を下すかのような結末で、スッキリさせてくれることも多いのだ。
こうした人間らしさが描かれているからこそ、『ブラック・ジャック』は何年経っても色あせない魅力があるのだろう。