■ファンに想像を委ねる最終回

 さらに1985年には後日譚「恋ふたたびの巻」が発表され、単行本最終巻に収録されている。瞳たちの居場所を知らされロサンゼルスに向かった俊夫は、瞳がビールス性の脳膜炎にかかり記憶を失ってしまったという残酷な現実に直面する。

 恋人だった俊夫の存在も、キャッツ・アイだった過去も全て忘れてしまった瞳……。泪は「瞳のことは忘れて日本にお帰りなさい!!」と諭すが、俊夫はショックを受けながらも思い出のオルゴールを取り出し鳴らし始める。

 かつて“もし瞳がキャッツだったら”という仮定の話をした際、“2人で記憶喪失になって過去を捨てればいい”と語り、「この曲を聴けば思い出すさ」とオルゴールの音を一緒に聴いた記憶が鍵となる。愛が「姉さんに 聴かせたら思い出したりして」とつぶやく中、驚きの出来事が起こる。記憶を失って以来、ずっと閉じこもって外に出ようとしなかった瞳がみずから扉を開け、皆の前に姿を現したのだ。そして、俊夫が「きみのだよ」とオルゴールを渡し、海へ誘うと瞳は喜んで応じる。

 俊夫は泪に「こんなすばらしいことってありませんよ…」「だってそうでしょう?」「瞳ともう一度… もう一度恋ができる……」と語りかけ、泪も安堵の笑みを浮かべる。その後、夕焼けの海辺を楽しげに駆けまわる2人の姿で物語は締めくくられた。

 この後日譚は、担当編集が知人の実話を北条氏に話したことがきっかけだったという。記憶を失った妻に「また恋ができる」と語った夫のエピソードが俊夫の名言のインスピレーション源になっており、読者に強い印象を残した。

 父ハインツの行方は結局描かれず、続きは読者の想像に委ねられている。北条司自身も「自分としてはお父さんも見つけて、みんなで幸せに暮らしていてほしいなと感じていますが、続編を描こうと思ったことはない」と語っており、物語の余白がファンの想像力をかき立てている。怪盗と刑事、恋人と宿敵という二重の関係を描いた『キャッツ・アイ』は、完全なハッピーエンドではなくとも希望を残し、今なお語り継がれる結末となった。

 

 魅力的な登場人物が繰り広げる緊張感あふれるドラマが魅力の『キャッツ・アイ』。3種類の最終回にはそれぞれの魅力があり、今なお多くの読者・視聴者の心に強く刻み込まれていることだろう。新作アニメの配信をきっかけに、本作のファンはもちろん、未見の人も原作漫画や旧アニメを視聴してみてはいかがだろうか。

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