
1969年、藤子・F・不二雄さんによる原作漫画の連載が開始された『ドラえもん』は、50年を超える歴史の中で、その時代ごとの子どもたちに愛され続けてきた。アニメ、映画、ゲームなど、メディアミックスも数知れず、まさに日本最高峰の「子ども向け作品」といえるだろう。
だが、その原点となるコミックを読んでみると、子ども向けとは思えないブラックジョークも少なくない。とくに印象的なのが、ドラえもんや野比のび太がぽつりとつぶやく毒のあるセリフだ。たったひと言のセリフでありながら切れ味が抜群で、思わず笑わずにはいられない。
そこで今回は、原作『ドラえもん』において、つい感心してしまいたくなるユーモアたっぷりな毒舌シーンを紹介していこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■実は毒舌マスター? ドラえもんの毒舌
のび太をより良い未来に導くために22世紀からやってきたドラえもんだが、原作ではのび太に対し、かなり悪態をついている。単なる“いきすぎた悪口”のようなセリフも多いが、比喩表現や皮肉を含んだテクニカルな毒舌も目立っており、「ドラえもんといえば毒舌」と語る読者も少なくない。
たとえば、「トロリン」のエピソードでは、話が始まってすぐ真っ青な顔をして「ぼくの顔色……青いだろ」と聞いてくるのび太に「青いというよりうすぎたない。けさも顔を洗わなかったな」とバッサリ。スピード感のある毒舌で読者は笑えるが、その後、もちろんのび太はカンカンに怒り、これにはドラえもんも悪かったと謝っている。
毒舌の対象はのび太だけにとどまらない。「ジャイアン殺人事件」のエピソードで、ジャイアンの歌を無理やり聞かされたときのこと。のび太に「ジャイアン本人は どうしてあのすさまじい歌にケロッとしていられるんだろ」と聞かれ、すかさず「あたりまえだろ、フグが自分の毒で死ぬか!?」と切り返している。ジャイアンの歌をフグの毒にたとえる手腕は拍手ものだ。
念のために伝えておくが、ドラえもんは毒舌に特化したロボットではない。それでもこんなにシニカルな毒舌を連発できるとは、もしかしたら22世紀ではこんなやりとりが当たり前なのだろうか。うーん……はたから見るぶんには面白いが、そんな未来は少々遠慮したいものである。
■好きな娘に言うセリフ…? のび太の毒舌
ドラえもんに鍛えられているからかは定かではないが、のび太もまた、時折切れ味抜群の毒舌を繰り出す男である。とくに、大好きなはずのしずかに対しては、名調子になるようだ。
相手の私生活を覗ける「スパイ衛星」を借りる話では、しずかの入浴シーンをこっそり覗き見し、「しずちゃんはよくフロに入ってるな。よっぽどきれいずきなのか、よごれっぽいのか」と言っている。やっていることはともかく、「よごれっぽいのか」という独特の言い回しはかなり秀逸だと思う。
他にも、入浴中のしずかに「どうしてそういつもおふろにばかり入ってるの。これじゃさわれないだろ! 人のつごうも考えてよ」と、とんでもない逆ギレをしたこともある。
しずかがお風呂に入っていると、彼の毒舌のIQはとくに上がるみたいだ。のび太は射撃、あやとり、昼寝の才能があるというが、もう一つ「毒舌」も、彼の隠れた才能なのかもしれない。もっとも、その才能を好きな娘に発揮するのはどうかと思うが……。