誰ひとり欠けてほしくなかった…渡瀬悠宇の名作『ふしぎ遊戯』本気で悲しくなった「朱雀七星士の壮絶な最期」の画像
フラワーコミックス『ふしぎ遊戯』第1巻(小学館)

 1991年に『少女コミック(現:Sho-Comi)』(小学館)で連載が開始され、1995年にはアニメ化もされた渡瀬悠宇氏の少女漫画ふしぎ遊戯』。

 古代中国をモチーフとした異世界を舞台に、愛と戦いを描くバトル、ロマンス、ファンタジーが融合した作品で、令和の現在もスピンオフ作品が続くなど、世代を超えて熱心なファン層に支持され続けている。

 物語は、女子中学生・夕城美朱が、図書館で見つけた謎の古書「四神天地書」の世界に吸い込まれるところから始まる。彼女は元の世界に戻るため、神獣・朱雀を召喚する使命を持った「朱雀の巫女」となり、七人の戦士である「朱雀七星士」を探し、共に戦っていくという壮大な冒険譚だ。

 この七星士たちは戦士であると同時に、美朱にとっては仲間であり、家族のような存在だった。美朱を守るため命すら投げ打った七星士たちの最期は、あまりに壮絶で、涙なしには語れない。

 今回は、特に衝撃的な別れを遂げた3人、張宿、柳宿、軫宿に焦点を当て、その最期を振り返る。

 

※本記事には作品の核心部分の内容を含みます

 

■敵に操られ、自ら命を絶った少年・張宿

 朱雀七星士の中で最年少の張宿(ちりこ)は、わずか13歳で科挙に合格した才気あふれる少年だ。

 七星士には、それぞれ特有の能力が与えられている。対応する四神の宿星を示す一文字が身体に現れ、術や身体能力の向上といったほか、個別の特殊技能が発揮される。

 張宿の場合、その才能は知力と冷静な判断力にあったが、それは足の甲に文字が浮かんでいる間だけという不安定な条件付きだった。小柄で臆病な性格も相まって、彼は自分の非力さをコンプレックスに感じ、「強い男」に憧れを持っていた。

 朱雀を召喚するために必要な「神座宝」を求め、美朱たちと寺院へと向かった張宿。だが、そこには同じく「神座宝」を狙う敵対勢力・青龍七星士の姿があった。

 青龍七星士・箕宿(みぼし)との戦闘中、張宿は精神的な未熟さを突かれ、字が消えていた隙を狙われて肉体を乗っ取られてしまう。操られた彼は、美朱たち仲間を攻撃するという最悪の事態に陥った。

 しかし、美朱の必死の呼びかけで意識を取り戻した張宿は、箕宿を道連れに自ら命を絶つ決意を固める。その姿は、幼いながらも誰よりも誇り高く、憧れ続けた「男らしさ」を体現していた。

 最期の瞬間、翼宿(たすき)に「こんなええ男…見たことない…!」と称賛され、笑顔のまま散っていった張宿。その勇気と覚悟は、少年としての未熟さも超えて、鮮烈な記憶として読者の心に刻まれている。

■美しい怪力七星士・柳宿の誇り高き死

 美しい容貌で、後宮の女官として暮らしていた柳宿(ぬりこ)は、その華やかな姿からは想像できないほどの怪力の持ち主であり、幾度となくその力で仲間を救ってきた頼もしい戦士である。

 当初は、想いを寄せる星宿(ほとほり)が美朱に惹かれていることに嫉妬し、彼女に敵意を向けることもあったが、やがて心を通わせ、かけがえのない友人となる。柳宿は美朱にとって、相談相手であり精神的支柱でもあった。

 その最期は、玄武の神座宝を求めて訪れた黒山で訪れる。青龍七星士・尾宿(あしたれ)との死闘の末、致命傷を負いながらも辛くも勝利を収めた柳宿。しかし、神座宝への道を巨大な岩が塞ぎ、行く手を阻んでいた。柳宿は残された力を振り絞ってその大岩を押しのけ、仲間たちへの道を切り開いた。だが、仲間が駆けつけたとき、柳宿はすでに息絶えてしまっていた……。

 柳宿は朱雀七星士の中で最初に命を落とした人物であり、その仲間想いの性格ゆえに、その死は大きな喪失感を残した。初登場時はヒロインの恋敵として意地悪な印象を与えるキャラクターだったが、死の前日には「仲間に会えてよかった」と美朱に語るまでに成長していた。

 朱雀七星士の中で最初の犠牲者となった柳宿。初期から冒険を共にしてきた仲間の喪失に涙した読者も多いことだろう。

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