■恋人を想い、最期まで人を癒やし続けた軫宿

 寡黙で大柄な軫宿(みつかけ)は、朱雀七星士で唯一の治癒能力を持つ心優しき戦士だ。

 かつて遠方への往診を引き受け、家を空けたことで最愛の女性・少華(しょうか)の死に立ち会えず、その罪悪感から人とのかかわりを避け、山中でひっそりと暮らしていた。

 物語終盤、朱雀七星士が能力を封印される中、青龍七星士属する敵国・倶東国の軍勢に攻め込まれる紅南国。激しい戦闘の中で軫宿は致命傷を負うが、それでも最後まで戦争で傷ついた村人たちを癒やし続けた。

 戦火の中、瀕死となった赤子を抱き、最後の力でその命を救う軫宿。その子の名は、かつての最愛の人と同じ「少華」であった。彼は「きっと…あの少華のようにきれいな…やさしい…娘に…な…る…」と言葉を残し、静かに息を引き取った。

 言葉少なな男が、愛と贖罪を胸に、最期の瞬間まで、“誰かを救う”という己の使命を貫き通した。派手な戦闘シーンではないが、心に深い余韻を残す別れであった。

 

 『ふしぎ遊戯』は、壮大な冒険譚であると同時に、ただ悲しいだけではない、美しい別れの物語でもある。張宿、柳宿、軫宿の死だけでなく、他の朱雀七星士の死もまた、誇り高きものであった。

 彼らの壮絶な最期は、読者に強烈な“喪失感”だけでなく、“誇り”と“愛”を同時に刻み込んでくれた。90年代の名作アニメがリバイバルされている中、ぜひ『ふしぎ遊戯』がもたらした感動もリバイバルしてほしい。

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