
『週刊少年ジャンプ』の黄金期を象徴する作品のひとつに、原哲夫氏と武論尊氏のコンビによる『北斗の拳』がある。核戦争後の荒廃した世界を舞台に、北斗神拳の継承者ケンシロウが暴力と圧政に立ち向かう物語は、多くの読者に衝撃と感動を与えた。
その中でも圧倒的な存在感を放ったのが、ケンシロウと北斗4兄弟の長兄ラオウとの死闘である。拳を掲げて「わが生涯に一片の悔いなし!!」と叫ぶラオウと、天が裂ける光景は、漫画史に残る名場面であり、読者の記憶に深く刻まれた。
多くの読者はここで物語が終わったかのような印象を持ち、「ラオウ倒して完結じゃないのか」と感じたに違いない。コアな読者であれば、修羅の国編まではかろうじて覚えているかもしれないが、それ以降の展開はほとんど思い出せない人も多いのではないか。なんせ、武論氏自身が“ラオウ編以降はあまり覚えていない”と語っているほどだからだ。
今回は、そんな『北斗の拳』の最終回をあらためて振り返ってみよう。
※本記事には作品の内容を含みます
■記憶喪失になったケンシロウは…
ラオウ戦後、ケンシロウは荒野で静かな時間を過ごすが、ユリアは病により帰らぬ人となった。やがて世は再び混迷の時代を迎え、成長したリンとバットは「北斗の軍」を率いて立ち上がる。
ケンシロウも戦いに身を投じ、修羅の国編では生き別れた実兄ヒョウやラオウの実兄カイオウと対峙。激闘の末、カイオウを倒したケンシロウは修羅の国を後にし、ラオウの息子リュウと旅をする。そして各地の内乱を収めた後、ケンシロウは亡きユリアの眠る地へ戻る……。ここまでが、ラオウ戦以降の展開の概要である。
しかし最終回直前、物語はさらなる緊張感を帯びる。かつてケンシロウに両目を奪われたボルゲが復讐に燃え、ケンシロウを狙うのである。しかも間の悪いことに、この時ケンシロウは落雷によって記憶喪失となっていた。復讐に取り憑かれたボルゲの眼差しは狂気と憎悪に満ち、戦場の空気を震わせた。バットはケンシロウの身代わりとしてボルゲに挑むが、力の差は歴然であり、無惨に捕らえられ拷問にかけられる。
そこへ現れたのが、記憶を失ったままのケンシロウだった。しかし、バットが「ケン!」とその名を叫ぶと奇跡が起こる。魂の叫びに応じ、ケンシロウの記憶と力が完全に甦るのだ。北斗神拳の圧倒的な技が炸裂し、ボルゲは「かぴぶ」「あぶた」「びぎょへ!!」といった叫びを連発しながらあえなく葬り去られる。
戦場に残された静寂の中、満身創痍のバットを介抱するのはリン。リンは彼女の幸福を願うバットによって記憶を消されていたが、ケンシロウと同じように記憶を取り戻していた。