■巧妙な擬態…子どもや女性を装うのは何のため?

 無惨と言えば、変幻自在の擬態も特徴の1つ。その姿は、配下の鬼でさえ見抜くことが困難なほど巧妙である。

 炭治郎が初めて無惨と遭遇した際、彼は「月彦」という青年の姿をしていた。そして近くには人間の娘と妻もおり、2人は月彦が鬼であることを全く知らず、ごく普通の家族として暮らしている様子だった。

 2019年発売の公式ファンブック第1弾『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録』によると、月彦の妻・麗の家は人脈が広く、貿易会社を経営していた無惨はその人脈を狙って彼女に近づいたことが明かされている。さらに驚くべきことに、無惨はもともと既婚者だった麗の夫を殺し、何食わぬ顔で彼女に近づいたのだという。

 無惨は目的のためならば、何の罪もない人間を殺めることも厭わない。麗は無惨が夫の仇と知らずにいられたことが、せめてもの救いだろう。

 そして子どもの姿に擬態した無惨は「俊國(としくに)」と呼ばれ、子どものいない裕福な夫婦に養子として引き取られている。“皮膚病で昼間は外出できない”という設定になっており、製薬会社を営む養父母は俊國が太陽を克服できる特効薬を作ろうとしていた。

 太陽を克服するという点で、製薬会社の設備や知識は最適だったのだろう。製薬会社のノウハウを活かして薬の開発を試みていた無惨は、優秀な子どもを演じながら、正体を隠して過ごしていた。しかし、後に禰󠄀豆子が太陽を克服したことを知ると、不要となった養父母たちを惨殺し、家を去っている。

 他にも芸妓を思わせる妖艶な美女など、さまざまな姿に擬態する無惨。人間社会に溶け込み、鬼殺隊の目を欺くこと、そして、青い彼岸花の情報を集めることが目的だったと言えるだろう。

 鬼を作り出すだけでなく、人間を巧みに利用する。彼の“永遠の命”に対する執着心や執念は、まさに常軌を逸したものであった。

 

 本作最大の敵であり、全ての悲劇の元凶となった鬼舞辻無惨。その原点は、病弱な体を治したいという人間らしい願いであった。だが、医者の薬によって奇しくも鬼の能力を手にしてしまったことで、“永遠の命”と“究極の体”を探し求める怪物へと変貌していった。

 無惨もまた悲劇に見舞われた1人だったのかもしれない。だが、その過程で奪った多くの命を思えば、彼が鬼殺隊にとって倒すべき宿敵であることに間違いはない。

 未だ明らかとなっていない無惨の謎は、すべて明らかになるのだろうか。本編、アニメを見て、確認していただきたい。

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