■仲間を支える兄貴分気質

 海南の控え選手・宮益義範に対しての態度も印象的だった。

 湘北戦で初出場を迎えた同級生の宮益に、牧は「お前の三年間をぶつけてやれ!!」と声をかけ、勇気づける。さらに3Pが決まれば、彼をフリーにした湘北相手に「海南のユニフォームをとった男だぞ」と誇らしげに語り、仲間の活躍を心から喜ぶ姿を見せていた。

 牧はまさに兄貴分的魅力に溢れている。神奈川県大会終了後、偶然街で桜木と出会った牧は「お前も見とくか? 全国ってやつを」と声をかけ、そのまま清田と桜木という悪ガキ2人を連れて愛知へ向かう。新幹線でワイワイと騒ぐ2人を静かに見守るその姿は、まさしく兄貴の表情だった。

 チームメイトだけでなく、かつての敵さえも受け入れてしまう懐の深さ。牧は絶対的な強者でありながら、誰かを支える立場を自然に引き受ける、根っからの“兄貴分気質”を備えたキャラクターなのである。

■勝利への執念、その裏にあるもの

 牧は、勝負の場に立てば一切の妥協を許さず、徹底して勝利を追い求める。海南の高頭力監督も指摘するように、その根底には王者としてのプライドと勝利への貪欲さがある。だが、そこには“ライバルに負けたくない”という、高校生ならではの純粋な勝利への思いも込められているのではないだろうか。

 翔陽・藤真健司や湘北・宮城リョータといった同地区・同ポジションの相手には一歩も引かず、流川や桜木といった勢いのある1年生にも容赦はしない。さらに陵南の仙道という自身に匹敵する相手に対しては、その才能を率直に認めながらも、最後の最後まで勝利を決して譲らなかった。

 王者の貫禄と冷静な判断力、そして秘めた負けん気とライバルへの対抗心。その絶妙な共存こそが、牧を単なる“完成された帝王”ではなく、バスケに青春を賭ける一人の高校生として輝かせていたのである。

 

 子どもの頃に『SLAM DUNK』を読んだとき、牧紳一というキャラクターは「強すぎる」「どこか怖い」といったイメージが先行し、どうしても感情移入しにくいキャラクターだったように思う。

 しかし大人になってからあらためて読み返すと、その印象は大きく変わる。老け顔を気にしたり、真顔でボケたり、仲間を全力で支えたり、ライバルと全力で競い合ったり。その姿はどこまでも人間的で、高校生らしい魅力に溢れた“等身大の帝王”だった。

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