
『週刊少年ジャンプ』(集英社)で1990年から連載開始された、井上雄彦氏の『SLAM DUNK』。
高校バスケットボールをテーマに描かれた本作には魅力的なプレイヤーが多く登場するが、なかでも「神奈川No.1プレイヤー」「帝王」「怪物」と呼ばれ、圧倒的な存在感を放っていたのが、海南大附属高校の主将・牧紳一だろう。
子どもの頃に読んだときは、湘北高校の流川楓や陵南高校の仙道彰といった華やかなエースキャラクターに心を奪われ、牧に対してはそこまで魅力を感じなかったように思う。だが、大人になって読み返してみると、実は牧こそが人間的な魅力にあふれていることに気づかされるのだ。
バスケットボールプレイヤーとしての実力は申し分ない。今回は、そんな牧の持つ“高校生らしい”人間的な側面に焦点を当て、その意外な魅力を深掘りしていきたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■老け顔を気にする等身大の姿
牧といえば、高校生らしからぬ“老け顔”で知られる。仙道と共に初登場したシーンでは、とても選手には見えず、まるで監督か社会人スカウトのようで読者を困惑させた。
さらに観客席から「まだ甘い…」と流川を評する姿は、まさに企業の重役の風格。海南の制服がブレザーであることも相まって、試合会場を出れば黒塗りの高級車が待っていても違和感がないほどの存在感を放っていた。
しかし、そんな外見とは裏腹に、牧本人は意外とそれを気にしている。湘北戦では主人公・桜木花道に「何が17才だ!! ダマされるか!」と、年齢について突っ込まれると、少し考えた末に桜木に近づき、「赤木の方がフケてるぞ!!」と大真面目に反論。その姿には、思わず笑ってしまう人間らしさがあった。
さらに、この一件が影響したのかは定かではないが、少しでも若く見せようとしたのだろうか……物語中盤からはトレードマークだったオールバックからセンター分けに変更。確かにこのイメチェンによって、爽やかさと若々しさが増している。
強さの裏に、外見について年相応の悩みを抱える一面を見せていた。
■真顔でボケる…意外な茶目っ気
「帝王」の名にふさわしい圧倒的な選手でありながら、牧は赤木剛憲や魚住純のように堅物一辺倒のキャラクターではない。むしろ、ときに真顔でボケをかます、意外な茶目っ気がある。
それが描かれたのが、インターハイでの一幕。開会式後、豊玉高校・岸本実理に馴れ馴れしく絡まれた牧は「……すまん 誰だっけ 君?」と申し訳なさそうに返す。この一言が絶妙な煽りとなり、桜木や清田信長を大爆笑させた。
さらにその直後、豊玉キャプテン・南烈を指して「…確か あれが豊玉のキャプテン南だ」と言ったあと、「北だったかな?」とぽつりと呟いている。
これらのやり取りは、計算されたジョークなのか天然ボケなのか判別しにくい。しかし、このシーンを通じて、牧の意外な魅力である柔らかさとユーモアセンスが垣間見えたのである。