■徹底した役作りで演じる夢を追う女性『バカ塗りの娘』堀田真由

 2023年に公開された、髙森美由紀さんが手掛ける小説『ジャパン・ディグニティ』を原作とした映画『バカ塗りの娘』にも、髪を切ることで大胆なイメージチェンジを遂げた女優が登場している。

 本作は内向的な主人公の女性が、青森の伝統工芸・津軽塗の職人を目指し奮闘する姿を描いたヒューマンドラマだ。未知の世界へと踏み出す主人公の成長劇はもちろん、職人である父との心のぶつかり合いや、再び動き出していく家族たちの姿にも心を震わされる一作だ。

 そんな本作において、不器用ながらも職人の道を歩み成長していく主人公・青木美也子を演じたのが、堀田真由さんだ。

 堀田さんは引っ込み思案な美也子の内面を表現するだけではなく、津軽弁を学んだり、津軽塗の手作業を職人から実際に教わるなど、熱心に役作りに取り組んだ。歩き方や自転車の乗り方など、何気ない日常の所作まで徹底的に研究し、青木美也子という人物をいかに演じるか追求し続けたという。

 そして堀田さんは、美也子の純粋さや無垢な姿をより明確に表現したいと考え、それまでトレードマークだったロングヘアを25cmも切り落とすことに。なかなか思い切った役作りであったが、堀田さん自身も美也子を演じることでさまざまなことを学び、気付きを得たという。

 結果、堀田さんは津軽塗を通じ、父とのぎくしゃくした関係や、家族、周囲の人々と接し成長していく一人の女性を見事に表現した。見た目の可憐さはそのままに、悩みながらも我が道を進んでいく女性のリアルな姿を表現し、作品に絶大な説得力を生むことに成功したのである。

 

 女性にとって「命」とも例えられる髪だが、女優たちはときに役作りのため、その美しい髪を切り落とすことさえためらわない。

 夫の死を乗り越える女性、天真爛漫な格闘娘、夢を追い成長する女性……彼女たちが演じたキャラクターはさまざまだが、髪を切るというアクションはキャラクターの転機や決意を象徴する重要な意味を持っているように思う。

 彼女たちが全身全霊で演じるキャラクターたちの生き生きとした姿は必見だ。ぜひこれを機に、見てみてはいかがだろうか。

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