笑いと恐怖は表裏一体…『りぼん』の常識を覆した伝説のギャグ漫画・岡田あーみん『お父さんは心配症』珠玉の「ホラー回」の画像
「特別展 りぼん」公式ビジュアル ⓒ集英社

 集英社の少女漫画雑誌『りぼん』において、1980代から90年代を中心に活躍し、「少女漫画界に咲くドクダミの花」の異名を持つ漫画家がいた。それが、岡田あーみんさんである。

 岡田さんの代表作である『お父さんは心配症』は、それまでの『りぼん』では考えられないような、かわいらしいイメージを軽々と超越した過激なギャグ漫画だ。

 本作は、高校生の一人娘・典子を溺愛し、過剰に心配する中年男性・佐々木光太郎が巻き起こすハチャメチャストーリーである。

 ただし「笑いと恐怖は表裏一体」という言葉があるように、本作は光太郎が恐ろしい幽霊などと戦いつつ、笑いを誘う話もあった。

 ここでは『お父さんは心配症』に登場する、「ガチなホラー回」を振り返ってみよう。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■ギャグ漫画だからこその緩急が怖い!?「壮絶悶絶!! 幽霊寺の怪の巻」

 第11話「壮絶悶絶!! 幽霊寺の怪の巻」は、サッカー部のマネージャーである典子の合宿に光太郎が無理やりついていき、そこで開催されたオリエンテーリングで巻き起こる恐怖回だ。

 典子のボーイフレンドの北野や、サッカー部キャプテン・片桐と同じグループになった光太郎は、チェックポイントを探すうちに道に迷い、山奥に迷い込んでしまう。

 途方に暮れた彼らの前に、突如として謎の美女が現れ、彼女の家へと誘われた一行は不気味な古寺に宿泊することとなる。

 しかしその美女の正体はヘビ女であった。深夜、光太郎たちを食べる目的で包丁を研ぎ、彼女はその本性を現し、光太郎たちに襲い掛かるのであった。

 岡田さんの描く漫画は、ギャグ描写はハチャメチャな絵柄でありながら、シリアスな描写はリアリティがあるのが特徴だ。その絵柄の巧みな緩急によって、ヘビ女や妖怪はとても気味が悪く、ギャグ漫画とはいえ、本格的な怖さを与えてくる。

 だが、そんなホラー回とはいえ、やはり最後は派手なギャグ展開で終わるのが本作の真骨頂である。この回でも、光太郎と片桐は“お前がいけにえになれ”と大喧嘩し、ヘビ女を交え、食うか食われるかの三つ巴の大乱闘を繰り広げるのであった。

■懐かしい心霊ネタが満載「恐怖!!北野君に霊が!!の巻」

 23話の「恐怖!!北野君に霊が!!の巻」は、北野が謎の女の霊に取りつかれてしまう話だ。

 「この一週間以内におまえをのろい殺す」という女の霊に取りつかれ、日に日に衰弱していく北野。心配した典子やクラスメイトがお見舞いに訪れるなか、光太郎だけはここぞとばかりに北野をからかいに来る。“あと5分で今日が終わる”というタイミングでクラスメイトたちは強い眠気に襲われ眠りに落ちてしまい、北野と光太郎の前に、ついに恐ろしい女の霊が現れるのであった。

 この回では光太郎が弱っている北野に対し「ほれっ 心霊写真」と言いながら、怖い本を見せている。そこには「大阪府Aさん 公園で」といった解説とともに、木の後ろに写る霊的な写真が描かれている。

 このシーンは昭和に大流行した心霊写真ブームや、『あなたの知らない世界』といった人気テレビ番組を彷彿とさせ、昭和生まれの筆者はとても懐かしくなり笑ってしまった。

 北野を苦しめた女の霊は“墓を壊されたあげくしょんべんを引っかけられた”という理由で彼を恨んでいたが、実はその原因を作ったのは光太郎だった。

 ラストでは立場が逆転し、今度は光太郎が霊に取りつかれ、北野がそんな光太郎に心霊写真を見せつけて苦しめるという見事などんでん返しで終わっている。

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