■シリーズ屈指の悲劇に光が…!?

 『ガンダム』シリーズにおける悲劇的な結末を語るなら、OVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』は外せない。

 スペースコロニーに住む“アル”と呼ばれる少年、アルフレッド・イズルハが体験した小さな戦争を描いた本作では、“バーニィ”ことバーナード・ワイズマンの悲しい最期が衝撃を与えた。

 ジオン軍の一兵卒であるバーニィは、アルをはじめ、コロニーで出会った人たちに絆され、ジオンの核攻撃からコロニーを守るために、ザクで最新鋭のガンダム「NT-1」に挑むことになる。

 巧妙な策を駆使し、バーニィは格上のガンダムと相打ちに。見事、戦闘不能にまで追い込んだが、同時に彼の乗っていたザクのコクピット付近をビームサーベルで貫かれてしまう。

 ザクのコクピットを見た回収班が「ミンチよりもひどい」というほどひどい状況であり、バーニィの凄惨な死にショックを受けた視聴者は多いはずだ。

 すべてが終わったあと、彼が遺したビデオレターをアルが再生するシーンも切なく、「なんとか生きていてほしい」と願わずにいられなかった。

 そんなバーニィがまさかの生還を果たすストーリーになっていたのが、1989年に発売された同名の小説だ。物語の大筋はアニメとほぼ同じだが、そのエピローグでバーニィと思しきパイロットが奇跡的に助かった旨が語られているのだ。

 小説の世界では、いつかアルとバーニィが再会できるかもしれない。本編の悲惨な結末に打ちひしがれたファンとしては、夢のような可能性が示されている。

 とはいえ『ポケットの中の戦争』が傑作といわれているのは、「バーニィの死」というラストがあってこそという見方もできる。それを一番感じていたのは、ほかならぬ小説版の著者である結城恭介氏ではないだろうか。

 小説のあとがきで結城氏は、バーニィらしき人物の生存を匂わす描写を「蛇足に過ぎないでしょう」と自ら語っており、その上で、こうつけ加えている。「一流の悲劇である、OVA“ポケットーー”を観た皆さんが、その感動ゆえに持つであろう、せつなさ、やるせなさを、少しでもやわらげてあげられたら――と」と。

 なにより結城氏は、OVA『ポケットの中の戦争』のシリーズ構成を担当した関係者でもある。アニメ本編が「一流の悲劇」であると分かりながら、それでもバーニィに救いのある終わりをかたちにしたかったことが伝わってくる。いちファンとしては、その英断に感謝したい。


 たしかに悲劇的な死のシーンがあるからこそ完成する物語はあるし、無理やり生存させるのは邪道という考えも理解できる。だが、どっぷり感情移入して見てきた作品だからこその、「幸せになってほしかった」「生きていてほしかった」という感情はなくすことはできない。

 アニメ本編の展開とは異なるIFストーリーは、そんなファンの気持ちを慰めてくれる、ひとつの「救い」なのかもしれない。

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