
新たな『ガンダム』ファンを数多く生み出した『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』。あのテレビアニメをきっかけに『機動戦士ガンダム』の小説版に再び注目が集まっている。
初代『機動戦士ガンダム』の監督を務めた富野由悠季氏自らが執筆した小説版は、アニメ放送当時の1979年に発売され、テレビアニメ本編とは設定や展開が大きく異なる。
とくに主人公のアムロ・レイがたどる結末は衝撃的で、いわば初代『ガンダム』の「別エンド」とでもいうべき作品となっていた。
アニメ作品と小説などの展開が異なるのは、『ガンダム』シリーズではよくある話。その中には、本編で悲惨な末路を迎えたキャラクターが「救済」されるケースもあり、ファンにとって救いになることもある。
そこで今回は、アニメ本編とは異なる「幸せな結末」が描かれた作品の数々を振り返ってみたい。
※本記事には各作品の核心部分の内容を含みます。
■『ガンダム』シリーズを代表する悲惨なラストを回避?
つらく悲しい話が多い『ガンダム』シリーズの中で、主人公ながら残酷な結末が描かれたのが、アニメ『機動戦士Zガンダム』のカミーユ・ビダンだ。
成り行きでエゥーゴの一員となり「グリプス戦役」を戦ったカミーユは、優れたニュータイプゆえに戦争が招いた悲劇に心を痛め、最終話では宿敵を倒しながら彼の精神は崩壊してしまう。
最後にZガンダムのコックピットにいたカミーユは、まるで無垢な子どものようになっていた。いまだ続く戦闘の光を見て「大きな星が点いたり消えたりしている」「彗星はもっとバァーって動くもんな……」などと呟く姿は痛々しく、あの結末がトラウマになった人もいるはずだ。
しかし、アニメ『機動戦士Zガンダム』から約20年後に公開された、劇場版『機動戦士Zガンダム』三部作では、大筋のストーリーに変更はないものの、カミーユに関する描写が多少変わっている。
幼なじみのファ・ユイリィと心を通わせたり、尖った言動がマイルドになっていたりと、テレビアニメに比べてカミーユの性格も比較的穏やかに描かれていた。
そして最大の変更点が、カミーユの結末が変わったことだ。パプテマス・シロッコとの最終決戦後もカミーユの精神が崩壊することはなく、無事に生還を果たす。
シロッコのジ・Oに突撃したウェイブライダー形態からZガンダムの形態に変形し、ファの呼びかけにカミーユがふつうに応えた瞬間、ホッとした視聴者も多いことだろう。
なお劇場版ではカミーユが精神崩壊しなかったため、続編のアニメ『機動戦士ガンダムZZ』にはつながらないという見方もできる。とはいえアニメ本編でカミーユがたどった悲惨なラストにショックを受けた視聴者からすると、幸せな結末に感じた人も多いのではないだろうか。
■富野由悠季氏が書き下ろした、もうひとつの『逆襲のシャア』
映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に登場するクェス・パラヤは家族の愛情に飢えた環境で育ち、それゆえにシャア・アズナブルに利用されて戦場で命を落とした。
13歳のニュータイプの少女は情緒不安定で、激情したあげく身勝手な行動を取ってしまう場面も目立った。
そんなクェスの、もうひとつの可能性を示したオリジナルストーリーが、短編OVAシリーズ『GUNDAM EVOLVE』の5作目「#5 RX-93 ν GUNDAM」の中に描かれている。
冒頭、α・アジールに乗るクェスは、ハサウェイが搭乗するジェガンを誤って攻撃してしまう。ハサウェイを殺したことにショックを受けるクェスは「みんな嫌いだ……」と自暴自棄になるが、その宙域にνガンダムに乗ったアムロが現れる。
感情的になり攻撃を仕掛けるクェスに、アムロは懸命の説得を試みる。その戦いの最中にアムロは、ハサウェイが生存していることを感じとるのだった。
「怒っちゃいけないよ。それじゃ可愛い顔が台無しだ」とクェスに語りかけるハサウェイ。その心の声は、やがてクェスにも伝わる。
ハサウェイがいるのは太陽の方角。「間に合うかな……」というクェスの不安そうな声に、アムロは「α・アジールのパワーを使えば助けることができる」「あとはクェスがそれをどう使うかだよ」と優しく導く。
クェスが飛び立った方向を見つめるアムロは「ハサウェイ、ちゃんと迎えてやるんだぞ」とつぶやき、短い物語は終わる。おそらくこの物語の世界では、クェスは戦死することなくハサウェイと生還できたことを示唆しているのだろう。
映画『逆襲のシャア』ではシャアに利用され、「子どもにつき合っていられるか!」とアムロにも相手にされず、最後はハサウェイをかばうようなかたちで死んだクェス。
わがままで自分勝手な面を指摘されがちな彼女だが、当時まだ13歳の子どもだ。そのことを踏まえると、『EVOLVE』では大人のアムロがしっかり彼女を導き、未来の可能性を感じさせてくれるラストになっていたのは救いがある。
そして何より、この「#5 RX-93 ν GUNDAM」のストーリーを富野監督自らが手がけている点が興味深い。氏自身、映画『逆襲のシャア』でのクェスの悲惨な結末に思うところがあったのかもしれない。