■子どもの想像力が紡ぐ、切なさと成長の物語『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』

 2020年公開のシリーズ第28作『映画クレヨンしんちゃん  激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』。本作は令和初となる『クレヨンしんちゃん』映画であり、コロナ禍による延期を経て9月11日に公開された。

 テーマは「クレヨン」と「落書き」。子どもの自由な想像力が世界を救うという、まさにシリーズの原点に立ち返った作品だ。

 物語の鍵を握るのは、描いたものを実体化させる秘宝「ミラクルクレヨン」。その力を扱える勇者に選ばれたのは、ほかでもないしんのすけだった。彼は自らの手でブリーフ、ニセななこ、そして“救いのヒーロー”・ぶりぶりざえもんという3人の仲間を描き出す。

 なお、ぶりぶりざえもんは、かつて声優を務めた塩沢兼人さんの逝去から約20年の時を経て、新たに神谷浩史さんが声を担当してスクリーンに復活した点だ。映画シリーズでぶりぶりざえもんが登場するのはなんと16年ぶりであり、これは往年のファンにとっても非常に感慨深い出来事だった。

 前半はロードムービーさながらの愉快な珍道中が繰り広げられるが、クライマックスに向けて物語は一気に切なさを帯びていく。クレヨンで描かれた仲間たちとの別れは、あまりにも突然であっけなく、それでいて各キャラクターらしさが詰まった名場面ばかり。涙なしでは見られないシーンの連続だ。

 なかでも、ぶりぶりざえもんの別れは圧巻だった。最後までしんのすけの前で強がり、大口を叩き続けるぶりぶりざえもんに対し、しんのすけは「やっぱり救いのヒーローなんだね」と呟く。

 この“やっぱり”という一言には、ぶりぶりざえもんがずっと変わらずしんのすけの心の中のヒーローであり続けたという事実が示されており、約20年ぶりの復活に喜んだ大人ファンの胸にも深く響いた。

 そして仲間たちとの別れを経て、しんのすけがひと回り成長した姿を見せてくれるのも非常に感動的だった。

 

 今回紹介した3本はいずれも、笑いの奥に強烈な切なさと深いテーマを秘めた「大人が泣けるしんちゃん映画」の代表格だ。このほかにも『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』や『謎メキ!花の天カス学園』など、大人の心を深く揺さぶる忘れられない傑作は数多く存在する。

 『クレヨンしんちゃん』の映画は、懐かしさと笑い、そして涙を通して、観る人の人生経験によって何度でも新しい感動を与えてくれるシリーズだ。だからこそ大人になった今、その魅力をあらためて味わってみてほしい。

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