
8月8日より公開された新作『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』。映画シリーズ32作目となる今作は、インドを舞台に主人公・しんのすけをはじめとする「カスカベ防衛隊」が活躍する物語であり、笑いあり涙ありの感動作として多くの話題を呼んでいる。
子どもの頃はただ笑って観ていた『クレヨンしんちゃん』の映画。しかし、大人になった今観返してみると、胸に深く刺さり、涙が止まらなくなることがある。時間の流れを実感した今だからこそ響くセリフや場面が、「しんちゃん映画」には数多く詰まっているのだ。
そこで今回は、大人が号泣する「しんちゃん映画」ベスト3を厳選して紹介する。笑いの裏に隠された、切なさと感動の名場面を大人になった今の視点でじっくり味わっていただきたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■昭和ノスタルジーと家族愛が胸を打つ『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』
2001年に公開されたシリーズ第9作『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』。
物語の舞台は、昭和の街並みを完全再現したテーマパーク「20世紀博」。そこにやってきた大人たちは、強烈な懐かしさに取り憑かれ、現実を忘れ、子どもたちを置き去りにして過去の思い出に浸ってしまう。
取り残された野原しんのすけたち「カスカベ防衛隊」は、両親たちを取り戻すために立ち上がり、奮闘する。昭和のノスタルジーと普遍的な家族愛が融合した、世代を超えて語り継がれる傑作だ。
本作の敵役であるケンとチャコの存在は、大人になってから見るとその印象が大きく変わる。
誰もが一度は抱く「昔は良かった」という感情。彼らは現代の息苦しさに失望し、まだ“心”が息づいていたと信じる20世紀へ世界を巻き戻そうと本気で企んでいる。その動機は、現代社会の大変さを知る大人だからこそ、深く理解できるものではないだろうか。
そして物語の中盤では本作最大の泣きどころ、野原ひろしが自らの人生を振り返る回想シーンが訪れる。
田舎から上京し、みさえと出会い、しんのすけが生まれた日々。家族のために懸命に働き、マイホームを手に入れた喜び……。走馬灯のように駆け巡る記憶の数々を、泥と汗にまみれた自身の靴の匂いが20世紀のノスタルジーから彼を現実へと引き戻す。
その瞬間は、大人の心にこそ深く突き刺さり、思わず涙がこぼれてしまう名シーンである。
■父親の葛藤と家族の絆を描く感動作『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』
2014年公開のシリーズ第22作『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』は、シリーズで初めてしんのすけの父・ひろしをメインキャラに据え、「父親のあり方」と「家族の絆」を真正面から描いた感動作だ。特に、大人になり家族を持った人にとっては、より一層胸に迫るものがある一作だろう。
物語は、ぎっくり腰になったひろしが、怪しいエステサロンでマッサージを受ける場面から始まる。施術を終えて帰宅したひろしは、なぜか全身がロボットの姿になっていた。最初は戸惑うみさえだったが、中身は変わらない夫である上、ある事故で子どもたちを救ったことをきっかけにロボットのひろしを家族として受け入れ、新たな日常の中で絆を再確認していく。
しかし、物語中盤で衝撃の真実が明かされる。なんと“本物のひろし”は敵のアジトに囚われており、“ロボとーちゃん”はひろしの記憶をコピーされただけの存在に過ぎなかったのだ。二人の「とーちゃん」が同時に存在するという事態がもたらす葛藤と切なさは、観る者の心を強く揺さぶる。
クライマックスでは、家族を守るために戦った“ロボとーちゃん”が無惨に壊れていく。そして迎える、本物のひろしとの最後の腕相撲。そして、家族との別れの時……。機械の身体ではあったが、“ロボとーちゃん”は確かに野原家の“とーちゃん”だった。クライマックスのこの数分間は、間違いなく誰もが涙腺崩壊状態になるだろう。