■眠りながら鬼を倒す実力者! 雷の呼吸の使い手

 前述したように、借金の肩代わりをしてくれた育手の元で修行した善逸は、雷の呼吸の使い手だ。鬼殺隊の剣士が使用する呼吸の中でも雷の呼吸は基本の流派の1つで、善逸の師匠である、じいちゃんこと桑島慈悟郎は雷の呼吸を極めた柱・鳴柱だった過去を持つ。

 厳しい訓練を積んだ末、善逸は雷の呼吸を習得するが、彼が使えるのは「壱ノ型・霹靂一閃」のみだった。この技は、下肢に筋力を集中させ、雷鳴の如き神速で繰り出す居合斬りであり、善逸はこの技1つを極めることで数々の死闘をくぐり抜けてきた。

 たった1つの技しか使えないとはいえ、その威力は絶大で、炭治郎や伊之助に引けを取らない戦闘力を誇る。

 しかし彼には、極度の臆病な性格から鬼を前にすると失神してしまい、本領を発揮できるのが意識を失った睡眠時のみ、という致命的な欠点が存在する。

 上弦の鬼と対峙した無限列車編や遊郭編においても、気絶しながら戦っていた。その姿を見た伊之助は、「お前ずっと寝てた方がいいんじゃねえか…」と、思わず本音を漏らすほどであった。

 とはいえ、意識のある状態でも上弦の鬼から少女を守った際には、常人ではあり得ない身のこなしを見せていたことから、根本的な身体能力は高いことがよく分かる。

 たった1つの技しか使えない善逸が、無限城編での戦いでどのような成長を見せるのか、その戦いぶりは必見である。

■明かされた兄弟子の存在…柱稽古中に届いた手紙

 善逸には同じ雷の呼吸を継承する兄弟子がいたことが明かされている。

 那田蜘蛛山編にて、人面蜘蛛の鬼に追い詰められた善逸が過去を回想するシーンがある。そこでは、首に勾玉の首飾りをつけた黒髪の少年が、善逸に対し「消えろよ」と辛辣な言葉を浴びせ、さらに「朝から晩までビービー泣いて恥ずかしくねぇのかよ」「お前みたいな奴に割く時間がもったいない」「先生はな 凄い人なんだ」と、畳み掛ける。

 師匠である桑島をじいちゃんと呼ぶ善逸に食べかけの桃を投げつけ、「じいちゃんなんて馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇ!!」と怒りをあらわにする場面もあり、兄弟子とはいえ、善逸との関係は極めて劣悪な様子だった。

 もともと両親がいない境遇で育った善逸は、誰からも期待されないと思い込んで生きてきた。そんな彼は師匠の桑島に才能を見出され、その期待に応えたいと必死に訓練に食らいついてきたのだ。それだけに、兄弟子の仕打ちはあまりにひどく思えた。

 そして柱稽古編では、善逸に大きな転機が訪れる。常人離れした柱たちの稽古は熾烈を極め、岩柱・悲鳴嶼行冥の訓練に苦戦していた善逸。そこへ雀のチュン太郎が鬼気迫る様子で一通の手紙を届けるのだが、それを読んで以降、彼の態度は一変。

 覚悟を決めたように塞ぎ込む善逸は、心配して「大丈夫か?」と声をかける炭治郎に「俺は やるべきこと やらなくちゃいけないことがはっきりしただけだ」と答える。普段の軟弱な様子からはかけ離れた善逸の姿に、炭治郎は戸惑いを隠せなかった。

 そして、炭治郎が去ったあとにも、手紙を力強く握りしめ「これは絶対に俺がやらなきゃ駄目なんだ」と言う善逸からは、ただならぬ決意が感じられた。

 無限城へ落とされた際にも、状況に困惑する隊士が多いなか、覚悟を決めた顔で落ちていく善逸。最新映画『無限城編』では、善逸の「やるべきこと」の真相がついに明かされる。その勇姿を、ぜひ目に焼き付けたいところだ。

 

 物語当初のビビりでヘタレな姿からは想像もできないほど、大きな成長を遂げた善逸。臆病なだけでなく誰よりも優しい彼は、炭治郎が鬼である禰豆子を連れていることに薄々気づいていながらも、彼を信じて禰豆子の入った木箱を身を挺して守り抜いた場面は、多くの読者の胸を打ったことだろう。

 そんな善逸の目覚ましい活躍が描かれる『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』。本作を観れば、彼の新たな魅力に気づかされるに違いない。

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