■ピッコロもまた異星人!? 舞台はついに宇宙へ
少年期の悟空にとって最大の敵だったピッコロ大魔王。緑色の肌に尖った耳、頭部の触角といった特異な容姿、それまでの敵と一線を画す圧倒的な強さ、さらには“神様の悪の心が分離した存在”という異質な出自からして、当初から明らかに“人間離れ”した謎多き存在だった。
そんな彼の正体が明かされたのは、物語が「サイヤ人編」に突入し、スケールが宇宙規模へと拡大していくタイミング。第214話、地球に襲来したベジータとナッパの会話の中で「ピッコロはナメック星人」という衝撃の事実がさらりと語られたのだ。
この「ピッコロ=ナメック星人」という設定は、ピッコロがまとっていたミステリアスな雰囲気や、神様が持つドラゴンボールを作れる特殊能力など、これまでの描写と見事に噛み合い、見事な伏線回収となった。
さらに、幼いピッコロが暮らしていた「丸くて4本脚のついた謎の建物」が宇宙船だったと判明し、その宇宙船を使ってブルマたちはナメック星へと旅立つ――こうして『ドラゴンボール』の舞台は地球を飛び越え、遥か宇宙へと広がっていく。
ちなみに、この宇宙船の起動キーとなったのが「ピッコロ」という言葉で、ナメック語で“異なる世界”という意味を持つとされる。つまり「ピッコロ大魔王」とは、“異世界から来た大魔王”という意味が内包されていたことになり、鳥山さんのそのネーミングセンスにも唸らされてしまう。
何気ない過去の描写の伏線回収がされるとき、読者は驚愕し、作品により一層引き込まれていくものだ。『ドラゴンボール』での鳥山さんの柔軟な発想力と圧倒的なセンスは、まさに伏線回収へと昇華させる天才性がそこにあり、物語の深みやスケールを押し広げる原動力となっていた。
なお今回は触れきれなかったが、『Dr.スランプ』に登場する「ドクターマシリト」のモデルとしても知られる名編集者・鳥嶋和彦さんをはじめ、当時のジャンプ編集部による卓越したサポートも『ドラゴンボール』という不朽の名作を形作るうえで欠かせない存在だったことを、最後に付け加えておきたい。