
伝説的天才漫画家・鳥山明さんは、『ドラゴンボール』第1巻の作者コメントで「全体のストーリーは、簡単にはできていますが、細部やラストは、いきあたりばったりで作っていこうと思っています。」と、語っている。
その言葉どおり、鳥山さんは物語を綿密に設計するタイプではなく、その場のノリや勢いを大切にし、自身でもどうなっていくかわからない物語を楽しんでいたという。
しかし、そんな即興的なスタイルからは想像もできないほど、『ドラゴンボール』には、後の展開で過去の描写が見事な伏線として回収される場面が数多く存在する。
今回は、そんな『ドラゴンボール』における天才的な「伏線回収」を振り返ってみたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■悟空の正体が衝撃すぎる! “サイヤ人設定”がその後の展開を変える
物語の第1話、主人公・孫悟空はブルマが放った銃弾を受けても「いてーっ」の、ひと言で済ませてしまう。尻尾の生えた当時11歳の少年の強さは、初登場時から明らかに常識外れであった。
その後も悟空は飛躍的な成長を遂げ、世界的な武道大会「天下一武道会」で活躍、悪の組織「レッドリボン軍」を壊滅させ、世界征服をもくろむピッコロ大魔王までも打ち倒してしまう。
読者も悟空の規格外の強さを「主人公だから」と、受け入れていたことだろう。だが、物語が中盤に差し掛かった第197話、突如現れた実兄・ラディッツの 「きさまはこの星の人間ではない!! 生まれは惑星ベジータ!! 誇りたかき全宇宙一の強戦士族サイヤ人だ!!!」という衝撃的な告白によって、悟空の超人的な身体能力や尻尾、大猿化といった特性、さらには幼少期に拾ってくれた育ての親・孫悟飯を死なせてしまった悲しい過去までが、すべて一本の線でつながっていった。
さらにこの「サイヤ人」設定が加わったことで、その後、宿命のライバルとなるベジータの登場、宇宙の帝王フリーザとの壮絶な戦い、さらには「超サイヤ人」への覚醒といった新たな展開が生まれ、物語は一気に宇宙規模へとスケールアップしていくこととなる。
ちなみに、実はこの「サイヤ人」設定を“予言”していたキャラがいる。それは初期メンバーのウーロンだ。
第23話、ピラフ一味のアジトで悟空が大猿化し、尻尾を切られて眠ってしまった悟空に対し、ウーロンは「宇宙人じゃねえのか?」とつぶやいている。
この時点で「サイヤ人」などという設定は、もしかしたら鳥山さん自身も考えていなかったかもしれない。しかし、結果的に“とんでもない伏線”として機能してしまうのだから面白い。
■ただの武器じゃなかった!? “如意棒”に隠された本来の役目
初期の悟空にとって欠かせない武器だった伸縮自在の「如意棒」。空を飛ぶ敵を叩き落としたり、月まで伸ばして敵を放置してきたりと、物語の序盤では悟空の相棒として活躍していた。
しかし第162話、ピッコロ大魔王との死闘を制した悟空に対し、カリン様によって驚きの事実が明かされる。 「本来 如意棒は この世と神殿とを結ぶ棒なんじゃ」と。
その言葉に従い、悟空がカリン塔の頂上に如意棒を突き立ててさらに天へと伸ばすと、そこに「神の神殿」が現れた。見慣れたアイテムだったはずの如意棒が、まさか新たな世界への道をつなぐ鍵だったとは、その驚きの使い方と展開に我々読者はワクワクさせられた。
ちなみにこの如意棒は、もともとカリン塔で修行をしていた亀仙人がどうしてもと言ってカリン様から借り受け、それが弟子・孫悟飯(じいちゃん)へ渡り、やがて悟空の手に渡ったという経緯を持つ。悟空自身がその真の価値を知らずに、ずっと単なる武器だと思っていたという事実も、このエピソードに深みを与えている。