2025年も「原画展」開催!『秘密』に『輝夜姫』、『月の子 MOON CHILD』画業40周年を迎えた少女漫画家・清水玲子の美しくも残酷な世界に隠された「人間の渇望」とは?の画像
ヤングアニマルコミックス『秘密 -トップ・シークレット-』第1巻(白泉社)

 少女漫画家・清水玲子氏の「画業40周年記念」として、2023年11月の東京・池袋サンシャインシティを皮切りに、大阪、鹿児島、福岡を巡回しながら「清水玲子 原画展」が開催。さらに2025年11月からは、東京・豪徳寺の旧尾崎テオドラ邸で「凱旋展」と銘打った原画展も決定し、多くのファンを喜ばせている。

 清水氏は1982年に『フォクシー・フォックス』で白泉社「第9回LaLaまんがハイ・スクール(LMHS)」佳作を受賞、翌年には『三叉路物語(ストーリー)』でデビューを果たし、63歳を迎えた現在も第一線で執筆を続けている。

 2017年3月、NHK Eテレ『浦沢直樹の漫勉』に出演した際には、“あの卓越した絵の「秘密」”を披露し、大きな話題となった。

 そんな清水氏の魅力を代表的な3作品を通じて、個人的に印象的だった「人間の渇望」について語ってみたいと思う。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■死人の脳から記憶という名の「心」の「秘密」を覗く禁忌

 1999年より『MELODY』(白泉社)で連載された『秘密 ートップ・シークレットー』(全12巻)は、2011年に第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。テレビアニメ化や実写映画化もされ、2025年1月に放送されたテレビドラマ『秘密 ~THE TOP SECRET~』(カンテレ・フジテレビ系)の原作にもなった作品だ。

 舞台は近未来の日本。死者の脳から“記憶”を“映像”として再現できる技術が発明されており、これを利用した「MRI捜査」を用いて「科学警察研究所 法医第九研究室(通称・第九)」は数々の未解決事件に挑み、解決していく。しかし、それは凄惨な犯罪映像を目の当たりにするという過酷な捜査でもあった。

 新人捜査官の青木一行(あおき いっこう)は、頭脳明晰で美貌の室長・薪剛(まき つよし)と出会い、さまざまな事件と、そこに潜む人間の“秘密”に踏み込んでいく。

 凄惨な殺人事件や虐待など目を覆いたくなるようなエピソードが描かれているが、それでも続きが気になり思わず頁をめくってしまう魅力的な作品だ。

 個人的に最も胸に刺さったのが、第2巻に収録された「2002」のストーリーだ。

 第九に配属された女性新人・天地奈々子は空気が読めず、頑張っても空回り気味で第九メンバーからは敬遠されがちだった。

 ある日、第九宛に人体から取り外された「脳」、“SEARCH MY BODY(私の体を探して)”と書かれた「カード」、そして「天地の顔写真」が入ったキャリーケースが届く。天地は第九への脅迫メールを見た後に襲われ、彼女の「脳」からMRI画像で「脅迫文」を見せるため、利用されたのだ。

 捜査が進み、犯人は渋谷連続少女殺人事件にかかわった女医と判明する。単独捜査をしていた天地の体は女医が経営する院内で発見されるも、命が助かることはなかった。

 非業の死を遂げた天地の「脳」が最後に見た「夢」——それは、第九でうまく立ち回った自分が仲間に受け入れられるというものだった。そのささやかな幸せの「虚像」はひどく切なく、残酷に思えた。

 本作は全12巻で一旦は完結するも、2012年からは前日譚などを描いた『秘密season 0』が、2025年現在も連載中である。

■『竹取物語』をモチーフとした禁断の長編SF

 日本の古典文学『竹取物語(通称・かぐや姫)』をモチーフに、禁断の長編SFとして1993年から『LaLa』(白泉社)で連載された『輝夜姫(かぐやひめ)』(全27巻)は、2002年に第47回「小学館漫画賞」を受賞した名作である。

 中性的な美貌を持つ少女・岡田晶は赤ん坊のころに竹林で発見されるが、なぜか幼少期の記憶を失っていた。ある日、2人の少年に米軍基地へと連れ去られた晶は、“神淵島(かぶちじま)”で生死を問わぬ非合法な「キャンプU.G.(アンダーグラウンド)」に参加することになる。

 島で起きるホラーミステリー展開は、やがて陰謀渦巻く世界の闇へと突き進んでいく。天女伝説が残る島の秘密を発端に、人類を滅ぼす病原体、クローン人間、異星人、地球に落下し始めた月……など、少女漫画の枠を超えたSF的な仕掛けがふんだんに盛り込まれた壮大な作品だ。

 神淵島では恐ろしい事実が次々に判明するため、晶に感情移入していた読者は物語が進むたびに戦慄を覚えただろう。

 なかでも一番ショックだったのが、晶をはじめクローン人間が、オリジナルのための“スペア”だったという事実だ。

 世界各国の要人(レシピエント)に臓器提供をするために作られ、オリジナルの身に何かあった時は自分の体の一部、あるいは大部分が奪われる。それは人間の身勝手なエゴから生まれた、あまりにも悲しい存在だ。筆者は後の展開から「テセウスの船」の命題を思い出した。

 一方、晶は引き取られた岡田家で養母から性的に苦しめられ、義理の姉妹のまゆからは異常な執着を向けられ神経をすり減らすも、実は互いに共依存であったと判明。家庭という身近な世界に存在する歪んだ人間のエゴには、思わずゾっとしてしまう。

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