■電話越しの生存報告に驚くゴルゴは必見もの「欧州官僚特別便」

 最後は、依頼そのものが罠だった「欧州官僚特別便(ユーロクラット スペシャル)」を見てみよう。

 このエピソードでの依頼内容は、KGBの裏切り者アレクサンドル・タミノフ教授を「胸ポケットにいつも入れている銀の懐中時計ごと心臓を撃ちぬいてほしい」という奇妙なものだった。

 ゴルゴは要求通りタミノフを時計ごと狙撃し、依頼は完了……かと思いきや、ゴルゴが去ったあとにタミノフの生存が明かされる。

 どうやら銃弾が懐中時計に阻まれ、心臓までを貫けなかったようだ。普段のゴルゴなら懐中時計の強度も計算して弾を用意するだろうが、今回は少々準備不足だったと言えよう。

 その後、タミノフはKGBの裏切ったフリをして西側に潜入したスパイ「稲妻(モルニヤ)」であることが判明する。KGBに所属する依頼人とタミノフはグルになってゴルゴを利用し、被害者を演じて西側の捜査を欺いたのだ。

 その企みに気づいたゴルゴは、エピソードの終盤でタミノフの眉間に報復の1発をお見舞いする。依頼をされた心臓ではなく眉間に撃ちこんでいるのは、背信に対する彼の静かな怒りの表れなのだろう。

 本エピソードの見どころは、ゴルゴが滅多に見せない驚きの表情だ。完全に死んだと思っていたタミノフの生存に茫然自失するゴルゴを舐めまわすように描かれた2コマには、衝撃とちょっとの笑いが混ざりあっている。「欧州官僚特別便」は単行本17巻に収録されているので、気になる人は実際に読んでみてほしい。

 

 50年を超える連載のなかには、今回紹介したエピソード以外にもゴルゴの失敗エピソードが描かれている。彼もまた、完全無欠の超人ではないのだ。

 だが、ゴルゴは失敗をそのままにしない。裏切りがあれば制裁を加え、リベンジのチャンスがあれば挑戦してきた。大事なのは失敗をしないことではなく、失敗のあとに何をするかなのだ。その姿勢こそが、ゴルゴ13を本物のプロたらしめているゆえんなのだ。

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