
さいとう・たかをさんが手がけた、単行本200巻超えを誇るハードボイルド漫画の金字塔『ゴルゴ13』。その主人公・デューク東郷は言わずと知れた凄腕のスナイパーだ。いかなる困難な依頼でも神がかった狙撃術で成功させ、遂行率はほぼ100%とされている。
そう、あくまで「ほぼ」なのだ。完全無欠に思えるゴルゴにも、実は依頼を遂行できなかった経験がある。不運なトラブル、常識を超えたターゲット、あるいは依頼人による罠など理由はさまざまだが、あの「ゴルゴ13」の失敗となれば、その内容が気になるのが人情だろう。
そこで今回は、ゴルゴが明確に「やらかした」といえる失敗エピソードを見ていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■一発の不発弾が見せたデューク東郷のプロ意識「アクシデンタル」
まずは、ゴルゴが明確に失敗したうえ、挽回することなく依頼をキャンセルした「アクシデンタル」からだ。
失敗した依頼をキャンセルしたとなると「ゴルゴなのに無責任だな」と感じてしまうかもしれないが、このエピソードはむしろ失敗を通じて彼のプロ意識を浮かび上がらせている。
物語は、不発弾によってゴルゴが狙撃に失敗したシーンから始まる。まさかの予期せぬ事態にゴルゴもうろたえたようで、信じがたいものを見るかのようにライフルに視線を向ける姿が印象的だ。
それもそのはず、ゴルゴが仕事に使う銃弾は彼自身が事前にチェックし、不発弾の確率をコンマ以下まで引き下げている。今回はとんだ不運だったわけだ。ゴルゴは、不発弾が依頼人に紹介された武器商人から調達した経緯から、依頼のキャンセルを通達する。
面白いのが、失敗してからの展開だ。不発弾の調査に乗り出したゴルゴはその過程で、事情を知らないイスラエル軍事組織に拉致されてしまう。彼らはゴルゴが自分たちに害を成すと判断し、依頼のキャンセルを強要しようとしていた。
この時点で依頼はなくなっているのだから、身を守るためならOKすればいい。だが、ゴルゴは「こういう“形”でだせるおれの答は………“NO”以外にない」と、その要求を拒否。逆に爆弾で脅迫し返すのだ。
依頼を遂行できなかったとしても、それはゴルゴと依頼人の間での話であり、第三者によるキャンセルなんて絶対に認められない。それがたとえすでに破綻したもので、命の危機があったとしてもだ。これぞゴルゴのプロとしての矜持なのである。
ちなみに不発弾は武器商人が故意に混ぜたものとわかり、軍事組織から解放されたゴルゴが後日キッチリ報復している。プロの仕事を邪魔した報いというわけだ。
■ゴルゴが狙撃を2発外す! その理由は“エスパー”?「テレパス」
ゴルゴといえば、一発の銃弾で狙撃を成功させる「一発必中」のイメージがある。そんな彼が立て続けに2発も外す衝撃のエピソードが「テレパス」だ。
CIAからボリス・ゴドノフ大尉の狙撃を引き受けたゴルゴは、ターゲットが飛行機に乗り込む瞬間を狙って狙撃を敢行する。しかし、ボリスの近くにいた女性が何かを察知したかのような様子を見せると、当たるはずの銃弾が外れてしまう。
慌てて機内に入ろうとするボリスを再び撃つゴルゴだが、これも外れる。飛行機は出発してしまい、ゴルゴはスコープ越しに笑う謎の女性を見送るしかなかった。
ゴルゴが失敗したのも無理はない。謎の女性ことアンナの正体は、KGBが極秘裏に育成したエスパーだったと判明する。彼女はとくにテレパシー能力に優れており、ゴルゴの心を読んで狙撃ポイントを予測したのだ。
「相手がエスパーなんて、そんなのどうしようもない」そう思われた読者もいるだろう。だが、それをなんとかするのがゴルゴ13という男。彼は自己催眠によって精神を抑制し、狙撃するほんの一瞬だけ目覚めるという奇想天外なアイデアでテレパスとの戦いに臨む。結果、アンナは銃弾を感知できずボリスを射殺され、自身も死亡した。
ゴルゴが見事リベンジを果たした爽快な話に見えるが、物語では同時に母親想いなアンナの一面も描かれており、なんともやりきれない。ハードボイルドな爽快感と物悲しさが両立したエピソードだといえるだろう。