『名探偵コナン』誰も救われない結末がつらすぎた… 後味が悪いエピソード 「ウェディング・イブ」に「お金で買えない友情」もの画像
青山剛昌『名探偵コナン』(小学館)第75巻

 大人でも楽しめる作品として愛され続ける、青山剛昌氏によるミステリー漫画『名探偵コナン』。推理だけでなく、恋愛や冒険、アクションなどさまざまな要素が融合しているのも魅力の作品である。

 本作では数多くの事件が描かれるが、中には犯行動機や結末の後味が悪すぎると語り継がれているものも存在する。事件が解決したにもかかわらず、どこかモヤモヤした気持ちが残る……そんなエピソードは、かえって読者の心に強い印象を残すものだ。

 

※本記事には作品の内容を含みます 

■幸せの絶頂から地獄へ…「ウェディング・イブ」

 「ウエディング・イブ」はコミックス75巻に収録されているエピソードで、人気キャラクター・安室透の初登場回としても知られている。

 事件の舞台は、毛利小五郎の学生時代の悪友・伴場頼太の結婚前夜に開かれたパーティーの会場だ。頼太の婚約者・加門初音が被害者になってしまい、その事件に江戸川コナンが挑む単純な事件のはずだった。しかし、その真相は作中でも屈指のやりきれないものとなっている。

 頼太と初音は、結婚前夜のパーティーで幸せの絶頂にいた。2人は誕生日も血液型も一緒で“黙っていてもお互いの考えていることがわかる”と話すほど強い絆で結ばれている。しかし、パーティの途中でネイルサロンへ出かけていた初音は、頼太に電話で「サヨナラ」と言い残した後、駐車場で死亡しているのが発見された。その死は車ごと炎上するという凄惨なものだった。

 さらに警察による捜査の結果、現場にあった初音の付け爪に残った皮膚片から、頼太とほぼ同じDNAが検出される。動かぬ証拠の発覚に、警察は完全に頼太を最重要容疑者とみなした。しかし、コナンはその真相を解き明かす。DNAの一致にはある事実が隠されていたのだ。

 なんと頼太と初音はかなり稀なケースである「異性一卵性双生児」だった。彼らは幼少期に両親を亡くして生き別れていて、双子と知らずに再会し婚約までしてしまっていた。

 頼太の言動に違和感を覚えた初音は探偵を雇い、2人の出生について調査してもらっていた。そして、探偵による調査結果を聞いた後、絶望のあまり自ら命を絶つことを決意してしまう。

 この残酷な真実を知った頼太の慟哭で、事件は終わりを告げる。安室の初登場回ということで注目度も高いエピソードだが、その「誰も救われない結末」は記憶に深く刻まれるはずである。

■取り返しがつかない行動に絶句…「殺人犯、工藤新一/新一の正体に蘭の涙」

 「殺人犯、工藤新一/新一の正体に蘭の涙」は原作コミックス第62巻に収録されたエピソードで、タイトルの通り「新一登場回」となっている。 

 事件の始まりは、服部平次のもとに、屋田誠人という人物から“1年前の工藤新一の推理ミス”について話したいという手紙が届いたことだった。平次はコナンたちも誘い、意気揚々と事件の舞台となった東奥穂村に向かう。

 そこでコナンは誤ってAPTX4869の解毒剤を飲んだせいで、元の姿に戻ってしまった。しかも平次たちが新一を発見すると、彼は記憶を失っていて……という複雑なストーリーが描かれる。 

 その後、ある新聞記者が包丁で刺されて重傷を負い、記憶喪失の新一が容疑者になる最悪の展開に。平次は無実を証明しようと奮闘するが、なんと最終的に新一は犯行を自供してしまうのだ。「主人公が犯罪者に!?」という驚きの展開だが、続いてこの新一が「新一そっくりに整形した誠人」だったというさらなる衝撃の事実が明かされる。

 誠人が新一に成りすまし、彼の名誉を傷つけるため今回の犯行に至ったというのが事件の真相。さらに悲惨なのは、犯行動機が「勘違いだった」ということだ。 

 発端は東奥穂村の村長夫婦が殺された1年前の事件。新一はがんの宣告を受けていた村長が、それを苦に無理心中を図ったと推理したが、誠人はそれを否定した。なぜなら、検査の結果が良性だったと突き止めていて、「無理心中はありえない」と考えたからだ。

 しかし、実はこの検査で判明した別の事実こそが重要だった。血液型検査の結果、村長は「息子が実は自分の子ではなかった」という衝撃の事実を知ってしまったのだ。息子の今後も考えて村人に知られないよう、真の動機を隠した新一の配慮が裏目に出てしまった。 

 誠人は後でこっそりと駐在から真相を伝えられていたが、その時は精神的に動揺していたせいで話が耳に入っておらず、最終的に今回の凶行に及んでしまった。

 ラストで誠人は“何のために顔まで変えたんだ”と悲痛な声を上げ、崩れ落ちる。勘違いで整形をし、罪まで犯してしまうという救われない結末には、虚しさを感じてしまった。

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