■喪黒の誘導で足を踏み入れたら最悪の結末に…「駅までの道」
最後は、喪黒の画策によってこの世から消えてしまったであろうサラリーマンの話を紹介したい。
同コミックス5巻に掲載されている「駅までの道」のエピソードには、毎朝決まったルートを歩いて通勤する寄道清二という男が登場する。
寄道はいつも階段の先にある横道が気になるものの、そこに立ち入ろうとはしなかった。喪黒はそんな寄道の行動を見抜き、その横道に入らせるべくわざと工事中の看板を立て、横道へ入らせてしまうのだ。
寄道が向かった先は、林の中にある不思議な旅館。そこには美人女将が待っており、寄道は導かれるまま女将のあとをついて行ってしまう。
その後、行方知らずとなった寄道を心配した妻が横道に入ると、目に飛び込んできたのは「通行禁止 ガケくずれのため この先通れません」と書かれた看板と、無残にも崩落した道路だった。
真面目な人生を歩んでいたのに、つい横道にそれて悪い方向へ進んでしまったという話はよく見聞きする。しかし今回の場合は、喪黒がわざと工事の看板を立てて男を横道にそらし、あの世ともいえる場所に誘導させているのだから、なんとも不条理だ。
だが、世の中には真面目で良い人が、何の理由もなく不幸な出来事に遭遇することもある。『笑ゥせぇるすまん』はそのような理不尽さを巧みに表現した作品と言えるだろう。
今回紹介したエピソードの登場人物は、いずれも真面目に働き、他人に迷惑をかけることなく生きてきたまっとうなサラリーマンである。
しかし喪黒との出会いがきっかけで荒廃した世界に一人取り残されたり、命を奪われたりと、悲惨な末路を迎えている。いずれも、ほんの少し油断した心がきっかけで破滅へと導かれており、それは私たち現実社会においても起こりうることなのかもしれない。
実際に喪黒と出会うことはないだろうが、自分達も「ココロのスキマ」となる気の緩みには気を付けたいものである。