真面目に生きてただけなのに…『笑ゥせぇるすまん』喪黒福造に葬られたサラリーマンたちの「悲惨すぎるエピソード」“安心カプセル”に“駅までの道”も…の画像
『笑ゥせぇるすまん』[完全版] DVD-BOX(ポニーキャニオン) (C)藤子A/シンエイ

 2025年7月18日からPrime Videoで独占配信された、実写ドラマ『笑ゥせぇるすまん』。主役の喪黒福造(もぐろふくぞう)を演じるのはビジュアルがソックリだと話題の秋山竜次さん(ロバート)だ。

 原作は藤子不二雄Aさんの手がけた漫画で、1989年から1992年にはアニメも放送され、幅広い世代に人気を博した。

 本作は、喪黒が「ココロのスキマを埋める」と称して悩みを抱えるサラリーマンなどに近づき、最終的に彼らを不幸にさせるというブラックユーモアが特徴だ。その多くは家族や仕事を失うといったオチなのだが、なかには喪黒のターゲットとなったことで命を落とすというあまりにも悲惨な結末を迎えるものも存在する。

 今回はそんな理不尽であまりにも救いのないオチを迎えたエピソードを紹介したい。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■目が覚めたら荒廃した未来に一人きり…「安心カプセル」

 まずは、中公文庫コミック2巻に掲載されている「安心カプセル」というエピソードから。

 ある日、スバル360の車内で快適に過ごす浦成平一という男を見つけた喪黒。浦成は家では落ち着かず、車内で過ごすことが唯一の安らぎだという。

 だが後日、スバル360は故障してしまい、浦成は安らぎの場を失ってしまう。会社に行くのも嫌になったと言う浦成に対し、喪黒は現実と遮断された「究極の安心カプセル」に入るよう勧めるのだ。

 そのカプセルに入った浦成は安心して眠り続けてしまう。だが目覚めて外に出た浦成が見たものは、なんと自分以外誰もいない荒廃した世界だった。

 そもそも浦成は車内の狭い空間が好きなだけで、他人に迷惑をかけていたわけではない。唯一、非があるとすれば、現実逃避をしてカプセルに閉じこもり、眠り続けたことだろう。

 それでも目覚めた先が自分1人だけの荒廃した世界だったというのは、あまりにも恐ろしい。この理不尽なエピソードは、現実から目を背け逃げ続けることのリスクを私たちに教えてくれているのかもしれない。

■通勤時間を短くしたかっただけなのに…「長距離通勤」

 同コミック3巻に掲載されている「長距離通勤」は、アニメ『笑ゥせぇるすまん』が放送されていた90年代の「モーレツ社員」を揶揄するようなエピソードだ。

 長井道範というサラリーマンは、毎朝4時に起床し4時間もかけて通勤をしている。そんな彼の足を電車で踏んだ喪黒は、お詫びのしるしとして朝、ハイヤーで迎えに行き、会社まで3分のマンションを提供する。

 そこは部屋代も無料で、身の回りの世話は美しい女性が担当してくれるという好条件であった。喪黒は“日曜・祭日は必ず自分の自宅に帰ること”と念を押し、長井にマンションを提供する。

 しかし、マンションの快適さに溺れた長井は、約束を破り、祭日にもマンションに帰ってしまう。すると喪黒はお約束の「ドーン」をお見舞い。その5日後、無断欠勤をしている長井を心配する女性社員がロッカーを開けると、そこには干からびた長井の姿があった。

 往復8時間の通勤は極端だが、90年代の日本社会ではリモートワークがほとんど存在せず、遠方から都内の会社に通勤する人も多かった。

 喪黒が物語の最後に語る「会社をとるか? 住まいをとるか? これは選択に困るテーマですなあ」という言葉は、世相を反映している。長井が耐え忍んだ往復8時間の通勤地獄の果てに待っていたのは、ロッカーの中でひっそり干からびるという、あまりにも悲劇的な最期であった。

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