■キスで目覚める「落ちこぼれ魔法少女」

 次に紹介したいのは、1990年より『なかよし』で連載されたラブコメ作品『ミンミン!』。主人公だけでなく、周囲の個性豊かなキャラクターたちが魅力的で人気を誇った作品だ。

 都会でひとり暮らしをする男子高校生の村上一矢は、貧乏ゆえに彼女にこっぴどくフラれてしまう。その帰り道で拾ったチャイナ人形にキスをすると、その人形は魔法使いの少女「ミンミン」へと姿を変えるというところから物語は始まる。

 落ちこぼれ魔法使いのミンミンは師匠に人形にされ、人間界での修行を命じられていた。人形から元の姿に戻るには誰かにキスをしてもらう必要があり、500年も御主人様が現れるのを待っていたのである。

 だが、“落ちこぼれ”ゆえにミンミンの魔法は失敗続き。一方の一矢は頭脳明晰かつイケメンではあるが、男の価値は「金だっ!」を信念とする、ちょっぴり残念な人物である。そんなふたりが不思議な事件を解決したり、巻き込まれたりしていくテンポの良いドタバタラブコメデイだ。

 その作中には、脇役にもかなりクセの強いイケメンが多数登場する。一矢の悪友のリッチなモデルで、実はオタクな「国立茂」。ミンミンの幼なじみのポンコツ王子「アモン」。そのアモンのお目つけ役「シヴァ=シーン」。そしてミンミンの友達だった魔族の青年「ロキ」など、個性にあふれていた。

 もちろん、そんなバラエティ豊かなイケメンたちが、当時の女性ファンのハートをつかんだのはいうまでもない。

 なにより、どんなときも前向きで一生懸命なミンミンには好感が持てたし、彼女の「中華風衣装+魔法少女」という組み合わせは相性抜群。小柄で元気いっぱいのミンミンがとにかく可愛かった。

■恋あり、謎あり、冒険ありなラブ・アクションの傑作!

 最後に紹介したいのが、1985年より『なかよし』で連載されていた『あこがれ冒険者(アドベンチャー)』だ。物語の冒頭はよくある学園モノかと思いきや、海外へと飛び出していくスケールの大きさに圧倒された作品だ。

 同作の主人公は、中学2年生の小松崎美夜(ミィ)。5才年上の幼なじみ・広瀬一馬が初恋の相手だった。

 冒険好きの一馬は考古学を学ぶためにアメリカに留学していたが、2年ぶりに帰国。そのとき一馬は美夜に、「グリフィンのメダル」を預けてアメリカへと戻り、消息を絶つ。

 そして美夜の学校に、アメリカからの留学生である「光児=スペングラー」という金髪の美少年が転入してくる。実は彼の目的は、一馬のメダルを手に入れることだった。

 しかし預かったメダルは何者かに奪われてしまい、美夜と光児は一馬とメダルの行方を追うためにアメリカ・ニューヨークに向かうという怒涛の展開が描かれる。

 同作の主人公の美夜は、あさぎり作品の少女漫画に多いおとなしいタイプの主人公とは一線を画す、アクティブな性格。スポーツ万能で腕っぷしも強い。それに美夜の近くにいる男の子たちもバリエーション豊かなイケメンぞろいで個性が際立つ。

 そんな彼らがそれぞれの能力を活かしてピンチを切り抜ける展開は、まるで冒険小説を読んでいるかのようなワクワク感があった。次々と起きる事件には謎解き要素もあり、ゲーム感覚で先の展開を予想するのも楽しかった。

 なお、1991年には低学年向けにノベライズ化した『あこがれ冒険者』(講談社X文庫)も発行。小説・挿絵ともにあさぎり氏が担当し、コミックス5巻分が1冊にまとめられている。


 子どもの頃はあさぎり夕氏の繊細で美しい絵柄の少女漫画にのめり込み、その後も彼女の手がけた魅惑的なボーイズラブ小説にハマった読者は多いのではないだろうか。デビュー以来42年にもわたってさまざまなジャンルで活躍され、我々を夢中にさせてくれた偉大な作家だった。

 そんなあさぎり氏は2018年10月27日に肺炎で亡くなられた。まだ62歳というあまりに早すぎる別れにショックを受けた人も多いはず。

 あさぎり氏の絵柄を思い浮かべると、個人的にはシュッとした優しげなイケメンと、綿毛のようにフワっとした柔らかな女の子をイメージする。あさぎり先生が生み出した数々のキャラクターと作品は、これからも我々ファンの胸の中で生き続けるだろう。

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